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「蛙の子はカエル?」

クインテッセンス出版「歯医者さんの待合室」
2003年10月号に掲載



Baby Hustle 「カエル/和樂特別付録
鳥獣戯画フィギュア3 阿弥陀蛙」
「おはじき/ロサンゼルス・カウンティ
美術館のショップにて購入」
「背景/BALERI ITALIA のチェアー」

歯に信頼マーク
「歯に信頼」マークは、歯が傘をさして、むし歯から身を守っているマークです。厳しい製品テストを通過したものだけに使われています。


Mama Relax 『どーして わたしには
        ムシバがないの?』
いなばこうじ 鳥影社/1,200円+税

 10月です、皆さんの街の空は「天高く・・」でしょうか。仕事の合間に、天窓の向こうに広がる、抜けるような青空を見ると、ホッとします。この青空がいつまで見られるのかと、思いつつ、今回は「環境」についてのお話しです。
 環境問題と言っても、もちろん「歯」を取りまく環境問題です。10年前、次のような文を書いています。

「口の中の酸性雨」

 『エコロジー問題の一つに酸性雨があります。強い酸性の雨水のため、森林、草花から、大理石の宮殿にいたるまでダメージをうけているというものです。ところで口の中の酸性雨のことを御存じでしょうか。砂糖を口に入れると、歯の表面のカルシウムが溶ける酸性度にまで下がり、食べ終わっても十数分間は続いていて歯の表面は少し溶けます(ミニ虫歯)。このミニ虫歯は唾液中のカルシウムで自然修復されますが、これには数時間かかります。ミニ虫歯ができる回数が増えて修復が追いつかないと、やがて目に見える虫歯になります。そこで傘マークの登場です。食べても虫歯をつくりにくい食品にこの傘マークがついています。まだ日には導入されてはいませんが、近いうちにに目にすることと思います。口に中の酸性雨にご注意を。』
(ハナ通信1993年7月号より)
 最近では、この傘マークのついたお菓子を、コンビニなどでも見かけるようになりました。この傘マーク運動はスイスで始まったものですが、スイスのキオスクに行くと、置いてあるほとんどのお菓子(ガム、キャンデーなど)に、この傘マークが付いているのを見てビックリしました。スイスはほぼ完全に、傘マークの環境整備ができていました。
 この傘マークは、歯に関するせまい範囲での環境問題ですが、子供さんを取りまく環境問題もあります。学生時代のことです。実家が歯医者さんという同級生が、何人かいました。こちらが50
ccのバイクなのに、立派な車に乗っている事も大きな違いでしたが、やはり一番違ったのは「歯」です。奥歯まで、白くきれいな歯でした。ふと、「蛙の子はカエルなのかなあ」と思いました。たまに、この仕事についてから、尋ねられることがあります。「歯医者さんだから、歯がきれいなの?」。答えは「いいえ、違います。ムシ歯になっても、自分で治せないから、ムシ歯をつくらないようにしてるんです(笑)」。
 親が歯科医の同級生は違いますが、そうでない歯学部の学生が、歯の大切さ、ムシ歯になっていない歯(天然歯)の価値を、本当に実感するのは、専門課程に進んでからのことです。二十歳になるまでは、ムシ歯に関して普通の環境の中で暮らしています。ですから、奥歯にはかなり治療のあとがあり、金色や銀色の詰め物がはいっています。しかし、親が歯医者の子供は奥歯まで白い歯でした。蛙の子はカエルなのでしょうか。
 知り合いの歯医者さんが本を出されました。『どーして わたしには ムシバがないの?』という本です。歯医者さんとその娘さん(えりちゃん、小学一年生)が、この絵本を書いています。
 『ちっちゃいとき、おねえちゃんがかきごおりたべてるのをみつけたよ。でもえりがたべたら、こおりのあじしかしなかったんだ。│(中略)│おねえちゃんたちが「わたがし」たべてるのをみつけたこともあるよ。そのときはホントのわたをえりにたべさせたんだって。えりはまずくてたべなかったけどネ。ひどいおやだよねえ。でもいま、えりはひとつもムシバないよ。』
 「ひどいおやだよねえ」が、えりちゃんの環境です。その環境で育つと「でもいま、えりはひとつもムシバないよ」になります。皆さん、どう思われますか?今夏のハナ通信に「トビとタカ」という文を載せました。
 『毎年6月に、小学校の歯科検診に行きます。ご存じのように6月4日はその昔「ムシ歯予防デー」、今では「歯の衛生週間」になっています。始まりが1928年ということですから、75年も昔のことなんですね。さて今回は「鳶が鷹を生む」お話です。
 広辞苑によると「鳶が鷹を生む=平凡な親がすぐれた子供を生むことのたとえ」とあります。実は、この鳶と鷹は生物学的には親戚で、同じタカ目タカ科の鳥です。ちなみに鷹と鷲は同じ鳥で、大形のものをワシと称するそうです。この諺のカルノ流の勝手な解釈なんですが、生まれた時にはみんなタカなのではないでしょか?そのタカの雛が成長する過程において、環境などによって、トビになったり、タカになったりするような気がするのです。検診していると、つくづくそう思います。皆さんの歯は、すべて生えてきた時は健康で立派な歯です。天然歯とも呼びます。その天然歯が、ムシ歯になり金属がかぶり、また悪くなって抜かざるを得なくなる。タカの子として生まれているのに、タカには育たずに、気が付いたらトビになっていた。勿体ないというより、残念でなりません。たかがムシ歯とおっしゃらずに、鷹の子は、やはり鷹か鷲となって、大空をはばたいて欲しいものです。』(ハナ通信2003年7月号)
 えりちゃんにとっては「ひどいおやだよねえ」でも、お父さんである歯医者さんのいなば先生にしてみれば、親としての、歯医者としての「知恵」です。同じ歯科医師として、診療中にふと思い出す唄があります。小学生の頃にNHK「みんなのうた」で耳にした「バケツの穴」という唄です。「ばけつにあーなが あなが あいてーる」で始まるこの唄は、大まかに次のような内容です。『バケツに穴が空いている↓わらで穴をふさごう↓わらが長いから短く切ろう↓ナイフで切ろう↓さびているので研ごう↓砥石で研ごう↓砥石が乾いているので水で濡らそう↓濡らすには水が必要↓バケツで水を汲もう↓バケツに穴が・・』と、まあ結局どうどうめぐりする唄です。もう皆さん、お分かりのように、この堂々巡りからは、のがれたいものですよね。「知恵」をだして、時には大人の「悪知恵」でもいいじゃありませんか。この子供たちは、ムシバのない時代に生きる子供たちなのですから。悪知恵だして、次世代へ!
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