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お稽古のテンポ

クインテッセンス出版「歯医者さんの待合室」
2003年6月号に掲載



Baby Hustle 「メトロノーム/ドイツWittner社製」


オススメ絵本は、ヘンリー・ソローの
『森の生活』にちなんで、エッソの『もりのなか』です。

Mama Relax 『もりのなか』
マリー・ホール・エッツ 作
まさきるりこ 訳
福音館書店 900円+税

 さて、早いものでもう6月です。最近では、数字の語呂合わせや故事にちなんで、毎日のように「○○の日」を耳にします。目についた主なものをあげてみましょう。6月第1日曜日が「ベビーデー」。母の日と父の日の中間だそうです。また、同じくこの日はジューンブライドにちなんで「プロポーズの日」。入梅、夏至、冷蔵庫の日なんてものもあります。皆さん御存じ、6月1日は衣替えです。6月3日は「ムーミンの日」、4日が「虫の日」、10日が「ミルクキャラメルの日」、12日が「恋人の日」、16日が「和菓子の日」。20日が「ペパーミント・デー」と、枚挙にいとまがありません。
 ところで、6月6日は何の日でしょう?
 お分かりになった方もいらっしゃるのでは。記念日の事典では「楽器の日・邦楽の日・いけばなの日」となっています。「昔からの『習いごと、芸事は6歳6か月の6月6日から始めると上達する』との言い伝えにちなんで、全国楽器協会などが提唱して制定した」(記念日の事典)。ということで、今月はお稽古のお話。

 1歳になったばかりの女の子を持つグラ子さんは、ベリ子さんの大の仲良し。しかし、最近ちょっと元気がありません。今日はスタバのコーヒー片手に、ベリ子さんを訪ねました。



「グラ子、最近元気ないみたいね、どうしたの?」
『それがさあ、この子が、なかなか歩かないのよね。歩かないだけじゃなくて、この子ったらハイハイもしないのよ!』
「あなた、ひょっとして、そのことで悩んでんの!」
『ひとごとだと思って、そんなふうに言わない  でよ』
「実は、うちのなっちゃんもそうだったの。60人に一人のシャッフラーだったの。この新聞の記事見てよ」

 その記事は、毎日新聞の「子育て相談ルーム」のコラムでした。35歳女性からの相談は「10ヶ月の息子がいますが、まだハイハイができません。大丈夫でしょうか」というもので、その答えは、おおよそ次のようなものでした。「『はえば立て、立てば歩めの親心』というように、昔から子どもの発達は親にとって大きな期待を抱かせるとともに、心配の種でもあります。寝返りやつかまり立ち、あるいは独歩は個人差があるものの、できるようになる時期が分かっています。ところがハイハイは、その形の個人差が大きいだけでなく、まったくやらない赤ちゃんもいます。また座った姿勢のまま、お尻を浮かせて前進するシャッフルという独特の移動方法を取る一部の赤ちゃん(シャッフラー)はハイハイしないでそのまま立って歩き出します。これからハイハイをはじめる可能性もありますし、たとえハイハイをしなくても心配する必要はありません」(毎日新聞/平成15年4月13日朝刊)
 よく、若いお母さんから「子どもの歯が生えてこないのですが……」という相談を受けます。ほとんどの場合は、まったく問題ありません。子どもさんはすべて、それぞれ、発育・発達のテンポを持っています。そのテンポは人それぞれで、千差万別です。どうしても心配な時には、機嫌の良い時を見はからって歯医者さんに行ってください。レントゲン写真を撮れば一目瞭然ですし、もし撮れなくても、歯科医師が見たり、触ったりすれば、心配ないということがほぼ分かります。また、子どもさんの歯磨き、水やジュースを飲むという行為においても同じようなことがいえます。子どもさんは、歯磨きはもちろんのこと、コップから水を飲むことでさえ、お稽古を必要とするのです。始めからできるものではありません。初めての子どもさんの場合、お母さん方は特に不安になられるようです。決して早いことが良いのではありません。じっくりと、その子どもさんのテンポを見守ってあげてください。本にもこう書いてあります。
 「育児は競争ではない。子どもというのは、個人、個人、発達の違いがあります。ですからそういう発達の違いを見ながら、個性にそって、おおらかな気持ちで、こまごましたことになるべくこだわらない。そして余裕をもって育児にあたっていただきたいと思います」(ポンキッキーズの101メッセージ)
 SMAPも「世界に一つだけの花」のなかで歌ってますよね。「どうしてこうも比べたがる?」「一人一人違う種を持つ」「ちいさい花や大きな花―一つとして同じものはないから」―そうなんです、子どもはみんな「もともと特別なOnly one」なんですよね。
 もうひとつ、新聞に面白い話を見つけました。「赤ちゃんの成長を観察するのは、なかなか興味深いものだ。初めは寝かされたままである。(中略)やがて、立つ。歩く。言葉を話す。そういう変化を見ていると長かった人類の歴史を連想する。『子供というものはみんな、ある程度まで、世界をふたたび始めから生きる』と言ったのは、米国の思想家ヘンリー・ソローだ」(朝日新聞天声人語/平成7年6月2日朝刊)
 ヘンリー・ソローの『森の生活』を読むと、そのなかには、子どもたちが秘密基地を好むのは、人類が洞穴に住んでいた頃の記憶があるからであり、石けりなど、石で遊ぶのは石器時代の思い出か。木登り、昆虫採集、魚釣りは狩猟生活の記憶。犬やネコを飼うのは牧畜の思い出……等々。つまり、人類の太古の歴史を、始めから順に復習しながら、現代人になっていくらしいのです。
参考文献: 『記念日の事典』加藤迪男著/東京堂出版
『ポンキッキーズの101メッセージ』ネスコ
「毎日新聞/平成15年4月13日朝刊」
「朝日新聞/平成7年6月2日朝刊」
『森の生活』H.D.ソロー著/岩波文庫

 柱に掛けてある暦に「稽古照今」の文字があったので良く読んでみると、大意は「古(いにしえ)の事柄も、新しい物事もよく知っていて初めて人の役に立ち、世の為になるという」とありました。「稽古照今」は「いにしえをかんがえ、今を照らす」と読むそうです。昔から言うじゃありませんか「子ども叱るな来た道だもの、年寄りおこるな行く道だもの……」
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