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ワインとチーズ

クインテッセンス出版「歯医者さんの待合室」
2003年4月号に掲載



Baby Hustle 「ワイン/
BOURGOGNE ROUGE 1999 A.CHOPIN」

Mama Relax 「Eat Your Peas」
ケス・グレイ 作 ニック・シャラット 絵
よしがみ きょうた 訳
小峰書店 1,300円+税





 今回は、ワインとチーズのお話。えっ、ムシ歯予防と関係あるの?まあ、そうおっしゃらずに話を聞いてください。
 ベリ子さんは、小学校一年生の愛娘、ナッちゃんの関係でお友達になった気の合う二人のママと、久しぶりにレストランでお食事です。ブルゴーニュのレアものワインが登場するとあって、朝からウキウキ。レストランはフレンチで評判の「ミストラル」。
 まず、この日のメニューは・・・・・

 さて皆さん、このような場面で目にするメニューには、よく○○産とか、どこどこ産とか、その素材の出身地みたいな枕詞がつきます。また、ローストやコンフィのように、料理方法も出てきます。なぜだと思われますか?ルイ・ヴィトンニュース(ETE 1997)に、謎解きのひとつが載っていました。
「先生はメニューを詩集のように朗読する癖がありました。そこに書き連ねられた料理の名前を全て声に出して読み上げるのは、アペリティフを飲むのと同じ効果があるとの御説です。」つまり、その素材の出身地や、調理法を聞くことによって、食思(食欲)が刺激され、十分なる唾液が出て来るというわけです。
 唾液で潤ったら、もうひとつ考えてください。メニューの順番を変えてみたらどうなるでしょう。始めに、デザートを頂いて、最後に、白アスパラガスやサラダを食べる。野菜などの繊維質の多い物を食べるということは、歯を磨くことと同じことでになるのではないでしょうか。しかし、そんな食べ方をしたら歯は汚れないかもしれないけど、美味しくない!その通り。けど、自宅の朝ご飯なら可能かもしれませんよ。サラダを一口分だけ残しておいて、最後にパクッ、ムシャムシャ。それだけじゃなくて、料理の順番を変えたら、ワインが合わない!そうですね。
 この日のワインは、レコルタンマニュプランのシャンパーニュ。マコンの白に、ブルゴーニュはムッシュ・ショパンの赤ワイン。赤ワインやコーヒーなど、色素のしっかりした飲み物を飲むと、歯の色がくすむことがあります。このような外来性の着色をステインと呼びますが、このステイン除去に効果的なのが、話題のPMTCです。
 このPMTCは、ステイン除去のみならず、バイオフィルムにもその威力を発揮します。バイオフィルムとは、名前だけ聞くと、何かしらやわらかそうで、オブラートのようなイメージですが、実際は全くその反対で、かなり体にとっては危険で、手強いものなのです。歯の表面はツルツルしているように見えますが、顕微鏡的には細かい溝があって、わりとザラザラしています。そのでこぼこに細菌や食べ物・ステインがくっつくわけです。ムシ歯菌といわれるミュータンス菌は砂糖をえさとして、ネバネバとしたものを作って歯の表面にへばりつきます。このネバネバの中でミュータンス菌は増え続け、しだいに歯の表面に分厚いバイ菌の膜を作っていきます。この膜が「バイオフィルム」です。このバイオフィルムの下では、作られた酸によって脱灰がおこり、ムシ歯が作られていくわけです。さらに、怖いことには、このバイオフィルム1グラムあたり1000億個ものバイ菌がすんでいます。その中には、もちろんミュータンス以外のいろいろなバイ菌もすんでいます。これらのバイ菌は、バイオフィルムの存在によって、抗生物質や薬液からガードされ、生き続けます。さらにさらに面倒なことには、バイオフィルムができてしまったら、いくら歯ブラシでゴシゴシこすっても取れないということです。もちろん鏡で見ても分かりません。そのバイオフィルムを剥がす方法は、今のところPMTCが、最も効果的です。
 さらに驚くことには、これらバイ菌はパパやママから、かわいいベイビーにうつるということです。本には次のように書いてあります。
 「赤ちゃんが離乳食を食べ始めた時期に、自分の唇にスプーンをあてて食べものの温度を調べたりしませんでしたか。食べやすい大きさにするために自分の口の中で噛み切ってから赤ちゃんにあげたりしませんでしたか。(中略)何気なくしていたことから、赤ちゃんに虫歯菌をうつしていたというわけです。お母さんだけではありません。お父さんやおばあちゃん、家族のほかに保育者などの大人の口から感染して、子どもの歯に虫歯菌が棲みつくようになるのです。」(「もう虫歯にならない!」花田信弘 新潮OH!文庫より)ということは、パパやママの歯をきれいにすることは、かわいいベイビーの歯を守ることでもあるのです。 
 最後に、ワインと相性が良いのがチーズです。ある時、唾液の本を読んでいたらチーズに虫歯予防効果有りと出てました。キシリトールでもあるまいしと読み進めると、何にもましてあのチーズ特有の匂いと味が、強い唾液分泌促進効果を発揮して結果的に虫歯予防につながるようです。ワインを飲みながら、硬いフランスパンをよく噛み、デザートにチーズでムシ歯予防。フランス人は、美味しいものを美味しく食べ続けためには、ムシ歯予防やシソーノーロー予防が必要であると知っていたのでしょうか、それとも永年の知恵なのでしょうか。いずれにしても、恐れ入りました。
(唾液-歯と口腔の健康 河野正司 医歯薬出版)
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