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セーターとデンワ

クインテッセンス出版「歯医者さんの待合室」
2003年3月号に掲載



Baby Hustle 「セーター/ベネトン」
「携帯電話/ソニー・エリクソン」


Mama Relax 「ははははは」
五味太郎 作
偕成社 1,000円+税

【セーターのようなイリョウ】

 みなさんのところでは、今度の冬はどうでしたか。思いのほか、寒かった?思ったより暖かかった?えっ、まだ冬?ここ日南では、もう春が、始まっています。
 予報では暖冬ということでしたが、けっこう各地で雪が積ったりして寒い冬でしたね。着る物についても、セーターの出番が多かったのではないでしょうか。数年前は、かなりの暖冬でセーターの登場がすくなかった冬もありました。地球温暖化という言葉をよく耳にします。そのうちセーターは、消えてなくなってしまうのでしょうか。
 考えてみるとセーターとは非常に簡単な保温機能付き衣料です。ミッソーニ、ベネトン、ギャップ、ユニクロと、デザインや価格は違ってもその機能に は、ほとんど差はありません。セーターは、ひとの身体が本来持っている体温を保存・保持するだけのモノで、別段カイロのようにそのモノが発熱するわけではありません。ですから、当然オイルの補充も要らなければ、電池交換も不要です。きわめてシンプルで、かつエコロジカルなモノです。
 そこでアドバイス「セーターのような医療」。なにも厚手のセーターを身にまとい、汗をかいて痩せようというのではありません。シンプルかつエコロジカルな医療とは、すなわち予防中心の医療ということです。歯科の病気の多くは医科と違って、日頃の定期的なチェックや予防処置によって、かなり避けることができます。予防は最良の治療であり、シンプル(さほど時間や治療費を必要としない)でエコロジカル(薬や治療に必要な器具・材料を必要としない)です。もちろん痛みや不快感もほとんどともないません。そんなこと百も承知とおっしゃる前に、鏡であなたの口の中を見てみてください、ノートラブルという方はおそらく一握りの方でしょう。ノートラブルといえるのは、まだ歯が生えていない赤ちゃんくらいでしょうか。頭でわかっちゃいるけど、なかなかねえ・・。そうおっしゃらずに、次のお話を読んでください。


【デンワでアイティ】

 ベリ子さんの自慢の息子は、いま二歳のヨー君。先日、市の健康診断に行ったばかり。ムシ歯はまだありませんでした。そのときの会話は・・。



「ムシ歯はありませんが、これから、ヨー君は今まで以上に、いろいろな食べ物を口にするようになります。歯磨きやフッ素などで、予防を開始してください。歯医者さんには、もう行かれてますか?」
『実は今日そのことをお聞きしようと思って。やはり、行った方がいいのですか?』
「もちろん行った方がいいです。始めは、見学だけとか、歯磨きの練習だけから始めてくださいね。そうして、慣れてこられてから、しだいに次のステップへ、進んでください。」
『えーっ、見学だけでもオーケーなんですか?』
「もちろんオーケーですよ。歯科医によって、いろいろな考え方がありますけど、予防にまさる治療無しというのは、ほぼ同じでしょう。基本的に、歯が生え始めたら、予防を開始するのがベストです。ただし、その場合、赤ちゃんにとっての第一印象がポイントですけどね」
『そのポイントとは?』
「小さなお子さんほど大人以上に繊細です。光や匂いや音に対して敏感です。理想は、そのお子さんがお母さんのおなかにいるときから、ご一緒にどうぞ。そこの歯医者さんの音をおなかの中で聞いていますよ。ですから、出産後、お母さんは是非一緒に診療室に連れてきてください。一緒に来られるうちに、赤ちゃんも慣れてきますよ。ここは、痛いことをするところではないって、怖いところではないって(笑)」
『そんなこと、可能なんですか?』
「ケータイお持ちでしょう。まずはデンワで聞いてみられたらいかがですか。おたくは、見学だけでも良いですかって。してませんと言われたら、別の歯医者にデンワする。きっと、良いですよって、言ってくれるところがありますよ」
『ケータイでねえ』
「IT(アイティ)っていますけど、ケータイだってアイティですよ。アイティって、僕はこんなふうに理解していますよ。イナカ(I)で、トカイ(T)の生活を可能にするもの」
『田舎で都会の生活ねえ、面白いですね、ははは』
「母は、あなたですよ、はははは」
『そうですね、ははははは』

「すべて、むずかしいことは、存外、やさしく、やさしいと見えることが、実は非常にむずかしいもの」という言葉を本の中に見つけました。
これはひょっとしたら、ムシ歯予防の極意かもしれませんね。
吉川英明編 吉川英治人生の言葉『いのち楽しみ給え』から
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