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秋深き

 11月の声を聞くとさすがに秋の深まりを実感します。秋深きとくれば「秋深き隣は何をする人ぞ」が頭に浮かびます。ご存じ芭蕉の句で、死ぬひと月前に出席するはずの俳席に体調不良で余儀なく欠席し、届けられた句だそうです。前回の読書に続き、今回は音楽。オーケストラや楽団の指揮者についてのお話です。

ディレクター

 指揮者は英語でなんと言いますか?すぐさま「コンダクター(conductor)」という返事が聞こえてきそうですが、「ディレクター(director)」にも、指揮者という意味があります。ちなみに院長は「the director of a hospital」です。それぞれの動詞を調べてみると興味深い違いがわかります。

 「コンダクト(conduct)」=共に(con)導く(duct)が語源であり、(・・・に)導く・案内する、(熱・電気など)を伝える・伝導する、というような意味があります。
 「ディレクト(direct)」=まっすぐに支配されたが原義であり、指揮する・指導する・管理する、などの意味です。副詞では、まっすぐのという意味のダイレクトであり、人を介さず直接に、という意味もあります。

 ふたつの違いをご理解いただいたうえで、ディレクターの話を進めます。

スタッフとの関係

 セミナーなどでよく聞かれる質問に「院長とスタッフとの関係」があります。即座に「院長は監督ではなく、指揮者であるべきです」と答えます。楽団の指揮者と野球の監督とは何が違うのでしょうか?

 日南市は広島カープのキャンプ地です。北隣の宮崎市ではジャイアンツとホークス、南隣の南郷町ではライオンズがキャンプをします。監督と選手の関係は、はた目に見ると監督ひとり対選手全員のような気がします。昨年楽天が参入する時にも、オーナー側と選手会側という対立でした。ひとたび何か起こると、監督ひとりに対して、選手は一丸となって立ち向かうという構図です。確かに、それぞれの選手はポジション別に働きは異なります。しかし監督に対抗する時には、選手はみな手を取り合って横並びです(監督スタイル-図1)

 一方、楽団やオーケストラの団員はどうでしょうか。弦楽器パートの方が、急遽ピンチヒッターで金管楽器のパートに移ることはありませんし、不可能だと思います。団員の方は、ほぼ完全にパートごとに独立しているのではないでしょうか。独立していても演奏する曲目はもちろん同じです。独立したパートごとに、パートごとの楽譜を見ながらパートの持ち分を演奏することによって、ひとつの楽曲、ハーモニーを奏でることが、可能になるわけです(指揮者スタイル-図2)

各パート分け

 歯科診療所の各パートは大まかに、受付・歯科衛生士・歯科助手・歯科技工士に分けられるでしょう。もちろん、歯科助手が受付業務を兼ねるなど、各パートが重なる部分も多々あるでしょう。しかし基本的には、免許、資格、業務範囲など明確な違いがあります。

 各パート分けの基準は他にもあります。常勤スタッフが、受付・歯科衛生士・歯科助手の三人いたとしましょう。それそれが、高校生の母親・独身・ちいさな子どもの母親であるならば、これも立派な各パート分けとなります。ちいさな子どもさんはいつ熱を出すやもしれません。スタッフの免許や資格だけでなく、そのスタッフを取りまく環境(家庭事情)も立派な基準となります。

スタッフごとの就業規則

 弦楽器と金管楽器、打楽器など各パートが、曲の始めから終わりまで、休みなく演奏しているわけではありません。主役の場面もあれば脇役のこともあります。お休みの場面だってあります。受付の方でも、裏方で器具洗いや滅菌作業をする時もあるでしょう。家庭事情によっては、土曜日は出勤しにくいことや、祝日はまったく出勤できないなど、いろいろと考えられます。

 桜歯科では、各スタッフごとに就業規則があるといっても過言ではありません。もちろん、基本的な就業規則は統一されたものがひとつですが、個別に異なる規則もあります。残業の扱い方、急な早退・欠勤、出勤時間など、スタッフごとに少しずつ違ったルールがありフレキシブルに運用されています。

指揮者スタイルがベター

 多くの歯科診療所は女性の職場です。女性の職場とは、院長を含めて働く人の数において、女性が多ければ女性の職場です。少々過激な考えかも知れませんが、働く女性(おそらく男性も)は、みな「私がいちばん、院長に気に入られている」と心のどこかで思いたいのではないでしょうか。逆の言い方をしますと、院長はすべてのスタッフに対して「あなたが最高・あなたが一番」という気持ちを、何らかのメッセージとして伝えるべきだと思います。もしあなたが監督スタイルであるならば、スタッフは横に手をつないでスタッフ全員として院長に向かいますから、各スタッフを全員一番にすることは不可能です。スタッフは皆同じチームメイトと思っていますから、一番はひとりだけしかいません。

 指揮者スタイルであれば、各パート(各スタッフ)と院長がダイレクトにつながっています。しかも、各パートは独立しています。極端にいうと「隣は何をする人ぞ」です。ですから、各パートにそれぞれ一番の人がいても不思議ではありません。詭弁に聞こえるかもしれませんが、少人数の職場である歯科診療所においては、一人ひとりの能力・役割・ポジションなどが、それぞれであるということです。

指揮者スタイルにするコツ

 ラジオのフランス語講座の中に「秘密をおしえます」というコーナーがあります。フランス語の語彙や文法だけでなく、フランス人の考え方・特性などを、フランス語上達の秘密としておしえます、というものです。指揮者スタイルにするコツはまさしく「秘密」です。秘密を持つことです。

 先ほどから述べてますように、ディレクター(指揮者)と各スタッフは、ダイレクトにつながっています。仕事中はディレクター(院長)との結びつき(パイプ)はより太く、各スタッフ間の横のパイプは細く、というのが指揮者スタイルです。院長とのパイプを太くするコツがそのスタッフとの秘密の共有です。秘密と聞くと意味深ですが、いろいろな秘密があります。宝くじ、ペット、音楽、車etc.すなわち、そのスタッフが興味を持っていること、趣味などの話題をスタッフごとに区別して持つということです。

 ついでに太くするコツも教えます。スタッフAとの秘密が宝くじであるとしましょう。スタッフBから、宝くじの話題がでたら必ずスタッフAにも宝くじの話題をふります。つまり、宝くじのことならスタッフAという図式をつくるのです。もちろん仕事上でも同じです。レセコンのことはスタッフC、患者さんからのメールの窓口はスタッフD、飲み会ならE、業者さんの対応はFと、どんなことでもひとりの担当者というか責任者を設けるのです。このことによって、パイプは太くなります、つまり信頼関係が強くなります。

あなたの心にダイレクト

 この「あなたの心にダイレクト」は、携帯電話が普及し始めた頃に考えたコピーです。桜歯科の朝礼では今日の一文と称して、英語の短文をひとつずつ覚えます。少し前までは、その日の朝にテキストを開いて覚えていましたが、最近で
はケータイメールを使っています。あらかじめ、スタッフのケータイにメールとしてその文章を送ります。まさしく、スタッフ一人ひとりへ、あなたの心へダイレクト。ケータイメールを使うことによって院長とスタッフ間のラインの存在をアピールします。

 最後にもうひとつヒントを教えます。実はこの指揮者スタイルの関係は、取りも直さず患者さんと院長との関係でもあるのです。

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