
|
|

「秋来ぬと目にさや豆のふとりかな」
これは江戸時代後期の俳人、大伴大江丸の俳句です。お気づきのように、藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる」のパロディです。9月になったとはいえ、暑さが続きますが、朝夕には徐々に秋の気配が感じられるようになりました。今回は朝礼についてのお話です。

懐かしい言葉です。「homeostasis」生物や生化学で習いました。広辞苑によると「生物体の体内諸器官が、外部環境(気温・湿度など)の変化や主体的条件の変化(姿勢・運動など)に応じて、統一的・合目的的に体内環境(体温・血液量・血液成分など)を、ある一定範囲に保っている状態、および機能。哺乳類では、自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。その後、精神内部のバランスについてもいうようになった。恒常性。」とあります。最近、折に触れ「人のとる行動は、人の体内で起きていることに類似する」と思うようになりました。たとえば、近所(職場・学校なども含めて)の人との挨拶は、免疫学でいうところの「自己・非自己」の識別であり、自己を非自己から守ることに他ならないように思えます。またひとたび抗原が体内に入ると抗体を形成して、次なる侵入に備えることは、「前車の轍を踏まない」という、いわゆる学習するということに思えてなりません。
先月号「転ばぬ先のサプリメント」で紹介しましたが、生活習慣病は文字通りlifestyle-related diseasesといいます。この生活習慣こそ行動における「ホメオスタシス」がベースにあるように思われます。しかも生活習慣病という言葉があるということは、生活習慣によって、プラスのこともマイナスも起こりうると考えられます。

二つの文章を紹介します。
1「『いつものやり方』無意識の習慣に気づく」
人間は好奇心旺盛ですが、同時に恐ろしいほど習慣に支配されています。
好奇心が強くなければ、いまだに洞穴生活を続けていたことでしょう。ですが、習慣の支配力は強いもので、ある方法で何かを覚えると、無意識のうちにその方法ばかりを使い続けてしまうのです。私たちの脳は、四六時中あらゆることに疑問を持つような仕組みにはなっていません(そうでなければパンクしてしまいます)。問題なのは、前と同じように考えてしまいすぎることです(『スウェーデン式アイデア・ブック』22頁から)。
2「習慣が沈澱した身体」
スタイル概念においては、身体の次元が基盤となっている。ここでいう身体は、生理学で扱われている客体としての身体ではなく、固有の歴史的・社会的な行動様式が学習によって身体化された「習慣の沈澱」を指す。習慣化され、身についた振るまい方の一定の傾向が、スタイルを形成している。スタイルの一貫性の基礎は、身体の持つ習慣性にある。
近年の身体論が示しているように、私たちが身体感覚と呼び、普遍的性質を持つと考えているものも、基本的には歴史的産物である。また私たちの嗜好も、特定の社会の特定の歴史を背景として形成される相対的なものである(『生き方のスタイルを磨く』163頁から)。
おわかりのように、これがホメオスタシスによるマイナスです。このマイナスを筆者が認識したのは、毎年のように英会話とダイエットに失敗していた頃のことです。達成できないのは、英会話のテキストが原因でもなく、運動方法やマシーンが原因でもないことに気づきました。原因はただひとつ、習慣化していなかったことです。生活の中にしっかりと組み込んでいなかったということです。

すぐさま、習慣化する手立てを考えました。見いだした結論は「朝礼」です。いかにして、英会話とダイエットを新たに習慣化しようというのではなく、その時点で完全に習慣化されていたものに、付随させることを考えました。完全に習慣化されていたもの。なんといっても代表的なものは仕事です。桜歯科は週休2日ですので、週に5日間は、仕事をします。この中に組み込むことを考えました。その結果「朝礼」の中に入れることにしたわけです。それまでの朝礼はひとりずつ1分間スピーチしたのちに、その日の診療予定の確認でした。今では、まず2分から3分のダンベル体操。英会話のフレーズをふたつ。そのあと、簡単な予定の確認です。こうなると、否が応でも週に5回はダンベル体操と英会話の勉強をせざるを得ません。採用しているダンベル体操は、本来1クールに15のメニューがあるのですが、3つずつに小分けして5日間で1クール終わるようにしています。英会話のフレーズふたつずつは、前日のフレーズを3回、その日のフレーズを7回音読します。朝礼は、おおかた24時間ごとにあるわけです。昨日、覚えても翌日の朝にはほとんど忘れています。24時間後に復習することで、忘れていたフレーズをまた思い出すことができます。

今や、小売業界においてあらゆる意味でトップを走り続けるセブンーイレブン・ジャパンの会長鈴木敏文氏のことを書いた本『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」』に次のような文があります。
「勉強」は過去の経験をなぞる作業にすぎない
「何か新しい事業やビジネスを始めようとするとき、人はとかく、”勉強“から始めようとし、それが正しい方法であるかのように考えられています。その場合の勉強とはどのようなものかと突き詰めると、結局、過去の経験の積み重ねをなぞる作業にすぎないことが多いのです。しかし、新しいことを始めるとき、最初に必要なのは仮説であり、仮説はそうした勉強からはほとんど生まれることはありません。」(186頁から)
図を見てください。下のほうは「復習だけサイクル」です。過去の習慣という重力に引っ張られて、常に同じ軌道をぐるぐる回っています。いずれ、重力に引き寄せられ失速してしまうでしょう。かたや、上の方は「予習スパイラル」です。過去の習慣という重力に抗いながら、次第に加速して上昇していきます。予習は、挑戦、改善、改良、改革、革新、進化などの言葉にも置き換えられます。

昨年の本誌拙連載「ニコラ・システムズ」(2004年3月号)でも、紹介しましたが、前の福助社長・藤巻幸夫氏の言葉です。
「ただ、モノを売ったり、作る場合、単に生活に密着しているだけではもの足りない。密着しながら一歩先を行く新しい暮らし方やライフスタイルといった「生活提案型」が必要。逆に言えば、一歩先を提案するには、今ある生活に委ねていなければならない。まさに「生活提案型と生活密着型の融合」が、これからの商売のスタンスだろうね。」
さあ、明日からはホメオスタシスによるマイナスをうち破って、一歩先の朝礼にしてみませんか。実は、流されないスタイルを持ち続けることこそが「ホメオスタシスによるプラス」です。最後に朝礼で覚えた英語の文章を紹介いたします。
「Bad habits, once formed, are very hard to get rid of.」
「悪い習慣は、一度身についてしまうと、取り除くのが非常に難しい」
せっかくですから、最後はプラスで締めくくりましょう。
「Continual efforts are a prerequisite to success」
参考文献/
『スウェーデン式アイデア・ブック』 フレドリック・ヘレーン
ダイヤモンド社 1000円+税
『生き方のスタイルを磨く』 齋藤孝
日本放送出版協会 970円+税
『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」』 勝見明
プレジデント社 1238円+税
『藤巻のたのしく商売する法則』 藤巻幸夫
日本実業出版社 1300円+税
『英語基本熟語集』 赤尾好夫
旺文社 510円+税
|