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 先月号に続き、夏に向けてのヒントとなるお話です。

院長が決めること

  20年以上前のことですが、大学入学とともにラグビー部に籍をおき、1学年上の先輩が、よく飲みに連れて行ってくださいました。そんな時、先輩がおっしゃるには「大学生になったのだから、酒とタバコは自由!さあ、飲め」。その先輩は人格者でしたから、飲酒・喫煙を強要することはありませんでしたが、「大人になったんだぞ」というその人なりの、ひとつの哲学であったと思います。

 さて、開業して院長になり数年経った頃、ふと、この言葉を思い出しました。先輩の言葉を借りるならば「院長になったのだからお金と時間は自由!」。これは院長だから、お金と時間が自由に使えるということではありません。お金と時間をコントロールできる、お金と時間に関する決定権は院長が持っている、ということです。すなわち「院長は数字を自由に扱える」。

知恵のチェア

 この知恵のチェアについては、拙連載スタートの本年1月号でお話しました。理想型は3本足の椅子(お金・時間・エネルギーの3本足)ですが、現実にはなかなか3本足で安定とはいきません。そこで知恵を出してエネルギーの1本足の椅子にバランスを取りながら立ちましょうとの話でした。とは言うものの、やはり1本足では不安定です。



 そこで、時間の足を伸ばして強化しましょう。

時間は有限なパズル

 では、いかにして時間の足を伸ばすのか。その昔小学生で、まだ国鉄と呼んでいた頃、汽車に乗る時に、何かしらの暇つぶしをリュックに入れていたものです。その暇つぶしのひとつに、数字のパズルがありました。限られたスペースの中で数字のコマを動かして順に並べていくものです。数字だけでなく図柄もありました。

 桜歯科では数年前から、筆者が海外研修などで1週間休む時の休診日(スタッフにとっては休日)のルールを変更しました。開業当初は完全週休2日制(ただし祝日はオープンもしくは振り替え)でした。その後、2週4休制に、現在は3週6休制です。図1を見てください。今月のカレンダーです。基本的には第2週のように木曜休診の週休2日ですが、第3週の海の日に合わせて、3週6休にしてみました。7月17日から20日までの4連休がすぐに可能です。トータルで休診日は増えていません。加えて夏休みを3日間設ければ、1週間の休みになります。

 現在、当院では休診日を決める際に、ゴールデンウイークやお盆などにはあまりこだわってはいません。なぜなら日本全体が休む時期に休んでも、交通渋滞や人出が多いとかで、十分に休めないからです。このような考え方を「自分軸」と称して昨年の本誌拙連載「ニコラ・システムズ6月号」待ち人おこらずシステム2に、書いています。ご参照のほど。

 自分軸の考え方で、数字のパズルよろしく休日をコントロールして「1週間の休暇」を設けました。残るハードルは、いかに患者さんに休診日を告知するかということです。多くの診療所は予約制でしょうから、予約外の方が対象となります。実は予約外で来院されるほとんどの方は治療中の患者さんです(「ニコラ・システムズ4月号」参照)。対応策としていくつか考えられます。実際に当院で実施しているものは次の四つです。
(1)休診日の院内掲示
(2)オープンカレンダー手渡し版(図2)を患者さんに渡す
(3)オープンカレンダー携帯電話版(図3)の導入
(4)治療中心医療から予防・メンテナンス中心の医療へシフト替え

後手から先手で1ヵ月のバカンスを

 お気づきのように、対応策の中のシフト替えは他とは毛色が違いますよね。このシフト替えは、予約外来院の患者さんそのものを減らす対応策です。車でもしかり、日頃まめなメインテナンスを怠らなければ、トラブルはほとんどないでしょう。極端な考えですが、補綴中心の歯科医療は後手後手医療であり、予防中心の医療は先手先手医療と言えるのではないでしょうか。グラフ1を見てください。補綴中心スタイルでは、歯科医の労働時間が長いほど診療所の総収入は増えます。総収入と同時に、材料費・人件費もかさみます。さらに患者さんの支払う治療費やストレスも増すでしょう。このようなビジネスモデルでは啄木の「はたらけど/はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る」が聞こえてきそうです。患者さんも超常連さんにはなってくれないでしょう。おそらく患者さんの本音はグラフ2でしょう。よいビジネスモデルを作るためには、患者さんの考えがグラフ3のようになることが必要です。診療所に通えば通うほど、ムシ歯や歯周疾患などは予防でき、PMTCなどのメインテナンスでアンチエイジングをはかることができるとなると、患者さんは一見さんから常連さんに、常連さんから超常連さんに。しかも満足度は増すばかり。さて先手先手医療にシフトした場合、グラフ4のような理想型も夢ではなくなります。予防中心の医療であれば、歯科医の労働時間は短縮可能です。しかも、患者さんの満足度をイコール治療費とすることができるならば、歯科医は短時間労働で高収入が得られます。そうなれば1週間といわず1ヵ月のバカンスを楽しむことが可能になるわけです。


参考文献/『声に出して読みたい日本語』 齋藤孝 草思社 1200円+税












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