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良夜

 「人それぞれ書を読んでゐる良夜かな」
 これは明治25年生まれの俳人、山口青邨の昭和9年発表の句です。山口青邨は採鉱学を専攻し東大工学部教授にもなった科学者俳人で、良夜とは秋の季語で月の明るい夜のことです。今回は読書についてのお話。

読書

 『プロ論。』というインタビューをまとめた本に登場する齋藤孝氏のことばで、優れたビジネスパーソンになるために、どんな意識を持つべきかとして、3つのことを揚げています。1つ目にスピードを意識せよ、2つ目はとにかく仕事量をこなせ、そうして続く3つ目が次の文章です。「そして3つ目が、読書をすることです。大量の読書をしない人には未来はない。思考能力は、読書によって鍛えられるんです。読書する人としない人には、思考能力に決定的な差がつきます。また、若いころは日記を書けと僕はよく言っていますが、文章を書くことはさらに思考能力を高めます。会話でも、含蓄のある言葉が使えるようになる。書き言葉に習熟することで、会話のレベルが一気に上がるんです」(239頁から)

 大量の読書はともかくも、読書を日常の中にしっかり根付かせるには、どうすればいいのでしょうか。まずここで、先月号「朝礼」の中でも取り上げた「英会話」についてすこし触れてみます。

優先順位

 「英会話」をある程度マスターしようとする場合に、まず何から始められますか?英会話だから、もちろん会話でしょうと思われる方も多いのではないでしょうか。では、会話の次にくるのは?会話の次はリスニングじゃないの。ならば、リスニングの次は?そりゃあ、また会話でしょう。そこで図1を見てください。いかにも不安定な図ですね。一方図2は河野流の英会話マスターの順序です。目の前に英語圏の人がいるとしましょう。こちらから一方的に話すことは希です。どちらかというと相手の問いかけに答える場面が多いと思います。ですから、まずは聞き取り・リスニングが必須です。しかも、リスニングの能力はかなり要求されます。相手がネイティブスピーカーであればあるほど、速いし、時に(日本の)教科書的でない英語を話します。このような意味でも、まずはリスニングです。次に切り替え・チェンジングです。ここでのチェンジングとは英語を日本語に変えるチェンジングではなく、考え方・理解方法を英語式に変える、日本語頭を英語頭に切り換えるということです。イメージとしては英語を日本語に置き換えて理解するのではなく、英語を英語として理解することです。聞いた英語をそのつど日本語に訳していたら、それは英会話ではなく単なる日本語訳の練習に他ありません。英会話の練習をしているつもりが、単に日本語訳の練習をしているわけで、これではいつまで経っても英会話の上達は期待できませんよね。

 話を戻しましょう。読書の場合は、何が優先順位の第1位と思われますか?読書だから、読むことに決まっているじゃない!と、聞こえてきそうですが、よく考えてください。読むためには、手元に本がないと読むことはできません。では、その本はどこで買って手元に持ってきますか?

 河野流読書日常化法の優先順位第1位は、まずその本の存在を知ることです。日南のような地方都市(田舎)の書店では、店頭に並んでいる本が、必ずしも食指が動く本とは限りません。書店は、それぞれの立地条件・規模・ポリシーなどの諸事情に基づいての品揃えをしていると思います(意外と面白いのが地方空港の書店です)。ですから実際に購入する本の多くは、新聞や雑誌の広告や書評欄で見つけます。見つけたら即、ネットで注文。日頃あまり自分では買わない女性誌や経済誌、流通や広告関係の雑誌でも、たまに立ち読みで「オススメ本」や「書評欄」に目を通します。さて、本を見つけて、ネットで買って、手元に来ました。通常、2、3冊のまとめ買いをします。梱包を開けて、パラパラとページをめくり、身近なところに置いておきます。身近に置くうちに、患者さんのキャンセルで時間が空きました。出張で1時間半飛行機に乗ります……等々、時間ができました。そんな時に、即、本を開けます(読みます)。読み始めると、興味深くて、面白くてページが進む章もあれば、進まない章もあります。ポイントは無理して読破しないこと。閉じた本は、また身近に置くか、本棚に並べるか。読み終わって、いまいちだった本は躊躇せず、他人(ひと)にあげます。小学生でも読めそうな本は、校医をしている小学校に寄付します。

優先順位づけ

 英会話における優先順位に気がついたのは、大学の5年か6年の頃です。帰省先から大学に戻る途中、特急列車に乗っていました。すぐ近くに、ひと目で外国人とわかる親子がいます。子どもは3歳くらいでしょうか。その子どもは、ママとしきりに英語で会話しています。その時、ふと思いました。こちらは、中学3年間・高校3年間・大学の教養課程2年間の計8年間も英語を勉強してきたのに、なぜ話せないのだろう、この子どもよりもきちんと英語を習ったはずなのに……。しかし、よく考えてみるとそれは単なる思い上がりです。その子どもは、朝目を覚まして、夜寝るまで、ずっと英語を耳にしているわけです。もちろん、口をついて出る言葉も英語です。

 英会話でも読書でも、なにかを習慣化したい時には、その何かを優先順位の第1位にすぐさま持ってくるのではなくて、その何かのバックボーン(背景)をきちんと明確化して、さらにそのバックボーンを優先することを考える必要性があると思います。小児歯科に力を入れたい場合に、すぐさま子ども向けのおもちゃや絵本を充実させるのではなく、その子どもを診療所に連れてくる母親への心づかいが必要になると思います。地方都市の場合、多くの親子は車で来院します。また、6歳未満の同乗者にはチャイルドシートが義務化されています。そうであれば、まずは駐車場に屋根を設けるべきです。雨降る中、傘をさしながらチャイルドシートから子どもさんを降ろすのは大変です。待合室には、そのお母さん方が夢中になるような雑誌を置くべきです。子どもの心をつかむ前に、まずお母さんのハートを射止める。英会話であれば、話す前にまず聞く。読書であれば、読む前にまず買う。

木を描くなら土から

 熊本在住の画家の方に聞いた話です。その方は学生の頃、草が枯れた風景や、枯れ木の林ばかり描いていたそうです。すると指導していた教授が、もっと花や緑の木を描いたらどうかとの注文、即座に「地面や土を描けずして、そこに生える木や花は描けません」と答えたそうです。地面といっても最表層だけを描くのではなく、その下の火山灰層や小石混じりの層を踏まえなければ、地面の表面は描けないとおっしゃっていました。「木を描くなら土から」文字通り深い言葉です。



参考文献/『プロ論。』 B‐ing編集部編 徳間書店 1600円+税

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