hiquint
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ハイク・イント
●写生
景色や事物をありのままにうつしとること。客観的描写を主とする態度。絵画から出て短歌・俳句・文章についてもいう。
●風呂吹き
大根・蕪(かぶ)などを柔らかくゆで、その熱い間に練り味噌を塗って食べる料理。

2003.December
流れ行く大根の葉の早さかな
高浜虚子 [俳人、小説家 1874-1959 松山生まれ]
【五百句】 昭和12年所収


 有名な句です。国語の教科書で目にされた方も多いことでしょう。今年1月にスタートした「ハイクイント」も、今月号で最終回、まさしく、早さかな、ですね。
「昭和三年十一月十日、九品仏吟行の時の作だという。『・・・フトある小川に出た。橋上に佇むでその水を見ると、大根の葉が非常な早さで流れて居る。之を見た瞬間に今まで心にたまりたまつて来た感興がはじめて焦点を得て句になつたのである』と作者は句集の序文で述べている。」(「名句鑑賞十二か月」164頁より)
 「作者が、ぐんぐんと水に流れ去る大根の葉を見て、一種の人生的感慨を持ったことは否定できないであろう。しかし作者はその意味づけをしようとは決してしない。すれば写生ではなくなるから。(中略)ただ、小川を流れる大根の葉を写真に撮っただけでは、誰もおもしろいとは言わないであろう。」(同165頁より)
 俳句には、この「写生」という言葉が出てきます。掲句は“「ホトトギス」流の写生句の代表”とよく言われますが、小生がこの「写生」について話すよりも、「写生」そのものを詠った句があります、それぞれにこの意味をご理解下さい。

  秋晴の空気を写生せよといふ  沢木欣一

 解説文によると、作者が棟方志功を訪ねた際に「空気が写生出来なければ駄目だ」と言われたあと、詠んだ句とのことです。

 さて、12月の異名に「臘月」(ろうげつ)があります。火を点したロウソクのように、あれよあれよという間に、尽きてしまうという意味だそうです。12月には「看看臘月尽」(みよみよろうげつつく)という禅語も目にします。まさしくみるみるうちにろうそくが燃え尽きるが如く月日は過ぎ去っていくという意味でしょうか。また、高校で習った英語の諺(ことわざ)に「Time and tide wait for no man」があります。これはよく「歳月人を待たず」と訳されますが、小生の英会話の先生が、この諺について話してくれました。
「timeは歳月であるが、tideは潮の満ち引きのことである。つまり、この諺には二つの意味があって、ひとつはtimeで時の流れを意味しており、まさしく歳月人を待たず。もうひとつのtideは、時ではなくて潮(しお)、すなわちチャンスのこと。出港するときには、上げ潮に乗りたい。その上げ潮は、出港しようとする船人に合わせて、やって来るのではない。この上げ潮に乗り損なったら、次の上げ潮は、いつ来るかはわからない。時の流れも、チャンス到来も、人を待たずである」
 少々、理屈っぽくなりました。最後に美味しい大根の句をご紹介して、この連載を終わりたいと思います。1年間のご愛読、有り難うございました。

  風呂吹にとろりと味噌の流れけり  松瀬青々


参考文献
1. 井本農一.名句鑑賞十二か月.東京:小学館,1998.
2. 清水哲男.増殖する俳句歳時記