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ハイク・イント
●目刺し
鰯(いわし)・(ひしこ)などに塩をふり、数尾ずつ竹や藁(わら)で目の所を刺し連ねて乾した食品。春の季語提
●木がらし(木枯らし・凩)
秋から初冬にかけて吹く、強く冷たい風。冬の季語
●エモーション(emotion)
情緒。感動。

2003.November
木がらしや目刺にのこる海のいろ
芥川龍之介 [小説家 1892-1927]
【澄江堂句集】 昭和2年所収


 「大正十一年の友人あて書簡に『長崎より目刺をおくり来れる人に』と前書きつきで引いているが、句は大正六年作とされている。贈物への返礼の気持ちを汲んで読めば、『目刺にのこる海のいろ』も一層心にしみるが、前書きなしでも句の繊細な情感は的確に伝わる。」(「折々のうた三六五日」より)と、解説がありました。
 「目刺し」とは、おもに鰯(いわし)の干物です。ご存じのように、いわしにはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれています。加えて、歯や骨には必須の栄養素であるカルシウムやビタミンDがたっぷり入っています。
 ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きをするビタミンで、日光浴で体内でも作られますが、それだけでは不足します。ビタミンD が含まれる食品は、シイタケなどの菌類といわし、カツオ、サンマ、サバなどの魚だけです。
 このように、歯にとっては非常に有り難いビタミンを多く含み、刺身でよし、煮てよし焼いてよし、とくれば食べない手はありませんね。
 別の歳時記には「目刺は小鰯の干物の目の部分を藁で貫いて束にするのでこの名があるが、この字の『目』が『海のいろ』によく響き、聴覚、視覚、嗅覚さえ加わって、句全体を厚みのあるものにしている。」(「名句で味わう四季の言葉」より)と解説してありました。「嗅覚さえ加わる」これは、俳句の醍醐味のひとつだと思います。ちなみに「木がらしや」が聴覚です。さすが龍之介ですね。そういえば、近頃「エモーショナル(emotional)」という言葉を、よく目にします。五感や感情に訴える、働きかけるというような意味合いを含んでいるようです。香水であれば、その広告を見ただけで、その香りが感じられるような宣伝広告。エモーショナルブランディングの一例です。また日産フェアレディZのホームページでは、「EMOTIONAL DRIVING」というコーナーがあります。頭で感じるのではなく、体や心で感じるドライビングであり、感動深いということなのでしょう。
 先の「嗅覚さえ加わる」とはまさしく、エモーショナルな効果であり、俳句の持つ底力です。
 さて、この目刺しをメインディッシュにしているお店があります。京都銀閣寺近くの「なかひがし」です。
「このご飯に合う肴はなにかな?と考えたとき、『目刺し。やっぱり鰯の目刺しやで!』と頭に浮かびました。お米の国の日本人。”目刺しと白ご飯”これをメインディッシュにして、そのご飯が炊き上がる間に、数品の料理を出そうと考えておりました。」(「草菜根」より)
 チャンスがあれば、是非、この目刺しを食べに行ってみてください。五感すべてにおいて、十二分に満足されることでしょう。

参考文献
1. 大岡信.折々のうた三六五日:日本短詩型詞華集.東京:岩波書店,2002.
2. 鈴木平光監修.いわし.東京:日本放送出版協会,1993.
3. 中村裕.名句で味わう四季の言葉.東京:小学館,2003.
4. 中東久雄.草菜根:そしてご飯で、ごちそうさん.東京:文化出版局,2001.
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