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ハイク・イント
●たくあん
沢庵漬け。漬物の一種。干した大根と糠(ぬか)と食塩とで漬けて重石(おもし)でおしたもの。沢庵和尚が初めて作ったとも、また「貯え漬」の転ともいう。たくわん。
●歯応え
物をかむとき、かたくて歯に抵抗を感ずること。
●歯触り
食べ物などを歯で噛んだ時の感じ。
●舌触り
食物などが舌にさわった感じ。
●食感
歯ごたえや舌ざわりなど、食物を口に入れた時の感覚。
●一汁一菜
1汁と1品の菜との食事。

2003.February
たくあんの 波利と音して 梅ひらく
加藤 楸邨 [俳人 1905年東京生まれ]


 「『波利』はハリと読むのかそれともパリか。後者の方が実際の音には近いが、この場合にはあえてハリと読むべきだろう。たぶん作者は、『波利』と意識的に漢字で書いて、パリという音をうしろに漂わせながら、ハリの音に軽やかに遊んでいるのである。その結果『梅ひらく』がこの音と優しく響き合う。たくあんと梅の花がこんな形で結びつけられるのを見ることに、詩を読むだいご味もあるといえる。」(『新編折々のうた(第三)』11頁より)

 さて、皆さんは「ハリ」と読まれましたか。それとも「パリ」?
 ひと昔前頃から、マンガ「美味しんぼ」や雑誌「dancyu」の中に、「歯触り」という語句をよく目にするようになりました。ちょっと気になって広辞苑で調べてみて、面白いことを発見しました。
 広辞苑第二版(昭和44年刊行)には、見出し語のなかに「歯応え」はありますが、「歯触り」や「舌触り」は見あたりません。歯触りや舌触りとは、新しい言葉なのでしょうか。ちなみに、歯触りと舌触りは、昭和58年刊行の第三版から登場します。
 筍サクサク、数の子バリバリ、たくあんパリポリ、せんべいバリバリ、いくらプチプチ、ポテトチップスパリパリ、これは歯触り。いか刺しシコシコ、ナタデココグニュグニュ、なまこコリコリ、白魚のおどりプチプルン、これは歯応え。と、勝手に解釈するならば、歯触りは聴覚で、歯応えは触覚(圧に対する感覚)といえるのかもしれません。別の見方をするならば、歯触りを表す言葉は音で、擬音語のようなもの。歯応えを表現する言葉はその状態で、擬態語のようなもの。
 最近では、「食感」という言葉もよく目にします。「新食感」と銘打って、宣伝している食パンもあります。平成3年刊行の第四版には、この「食感」という言葉は、まだ載っていません。この食感は、平成10年刊行の第五版に登場します。やはり、人々の食に対する満足度が時代とともにあがっていくのにつられて、美味しさを表現する言葉もふえてきているのでしょう。

 ところで、おいしいたくあんの文章を見つけましたので、御馳走します。
「届いた沢庵は、鬱金の鮮黄色。身肉の締まった細身。真空パックを開くや、容赦ない、匂いの自己主張。薄切れをひと切れ。パァリッ、パリッ、パリッ。うーむ、この固めの歯応え。嚼みごごちの快。塩っぱい。塩っぱいが、悪くない。塩と糠との発酵のうまみが、冬の日溜りを思わせる、ほのぼのとした大根の甘さが、滲みでる。まさしく、沢庵。」(『うまいもの帖』22頁より)
 一汁一菜の「菜」とは、本来、漬物のこと。白いアツアツのご飯と、美味しい漬け物があれば、もう幸せ・・。掲句を、日頃の生活から別読みすると、こんなかんじでしょうか。
「少し遅い新年会でしたたか飲んだ。昨夜の酒がまだ残っている、完璧な二日酔い。昼前にやっと起き出し、酔い覚ましに熱めの茶漬け。酒にあれた胃を、お茶漬けが癒してくれる。残ったタクアンに箸を伸ばす。昨夜の深酒の反省を促すかのような、タクアンの塩気。・・けど、このタクアン、う、うまい(うめえ)。ふと、庭に目をやると、梅がいちりん開いている」。
 芭蕉の言葉に「俳諧の益は俗語を正す也」とあります。意味は少々異なりますが、何げない日常を、非日常のような感動として表せるのも、俳句の力かもしれませんね。

参考文献
1. 大岡信.新編折々のうた(第三).東京:朝日新聞社,1987.
2. 大内侯子.うまいもの帖.東京:中央公論新社,2001
3. 復本一郎.俳人名言集.東京:朝日新聞社,1992.
4. 広辞苑第二版,第三版,第四版,第五版.新村出編.
東京:岩波書店,1969,1983,1991、1998
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