hiquint
next page
no.1 no.2 no.3 no.4 no.5 no.6 no.7 no.8 no.9 no.10 no.11 no.12


ハイク・イント
●喀血(かっけつ)
肺・気管支粘膜などから出血した血液をせきとともに吐くこと。
●転地療養(てんちりょうよう)
気候がよく空気の新鮮な土地に一時転住して、療養すること。
●旅の恥は掻き捨て
旅では、知っている人がないから、どんなことをしても恥辱にならないの意。
●ポジティブ
積極的。肯定的。
●薫風
南風。温和な風。青葉の香りを吹きおくる初夏の風。

2003.June
六月を奇麗な風の吹くことよ
正岡子規 [俳人、歌人 1867-1902 松山生まれ]
【寒山落木】 明治二十八年の部


 まずは、解説文を読んでください。
「子規にとってこれは運命的な年だった。まず彼は周囲の制止もきかず日清戦争従軍記者として大陸に渡った。しかし到着前に戦争は終結、帰国の船上で大喀血する。以後病床六尺の人となるが、この時は神戸、須磨、松山で療養後帰京した。右の句は一気に詠みくだしてさわやかな印象を与えるが、実は須磨療養中の作。」(「新編折々のうた」79頁より)
 転地療養という言葉を御存じでしょうか。病気治療のために、住む土地を変えることです。土地を変えることによって、精神状態を変え免疫能を高めて病気を治そうというのでしょう。
 「風邪をひいたときなど、わたしはよく、愛した人のことや愛された人のことを考えるんです。それだけで風邪が治ってしまったことも二、三度ありますよ。絶対に効くという訳じゃありませんがね。いくらやってもダメで、風邪がひどくなったときもありました。でも、役に立ちます」(「内なる治癒力」297頁より)
 この転地療養は、最近あまり聞かないような気がします。さて、目的は全く違いますが、旅も、身体的変化においては似ているのではないでしょうか。旅好きの小生としては、このような経験をたびたび実感します。
 「それにしても若い頃は、なんであんなにも旅がしたかったのだろう。鈍行に乗り、安宿に泊まり、みじめさばかりを味わいながら貧しい旅を繰り返したものだが、そういう若き日の旅が与えてくれたものの実体は、精神の浄化というのもではなかっただろうか」(「愛人学」117頁より)
 この“精神の浄化”が、病んだ身体を癒してくれるのでしょうか。ひょっとすると「旅の恥は掻き捨て」という諺の真意は、ストレス解放というポジティブな意味なのかもしれません。
 ところで、“奇麗な風”とはどんな風のことでしょう。暦に「薫風自南来」という禅語を見つけました。「くんぷうみなみよりきたる」と読みます。『青葉を渡る微風は得も言われぬ快さである。ここには言葉も理論も要らぬ。素はだかのよろこびのみがある。過去の悩みも、未来のもどかしさもない』と、大意が書いてあります。まさしく、奇麗な風とは薫風のことでしょう。
 最後に、雑学ネタをひとつ。フォルクスワーゲンの車名に、風の名前があるのは御存じでした?シロッコ、ジェッタ、ベント、ボラこれらは風の名前です。ついでにおまけをひとつ。
 「旅にでたいなあという思いは、恋をしたいなあという思いとぴったり同じである。で、旅に出て、旅だけして帰って来る。ほとんどの人が」(「愛人学」121頁より)

参考文献
1. 大岡信.新編折々のうた.第三.東京:朝日新聞社,1987..
2. スティーブン・ロック,ダグラス・コリガン.田中彰他訳.
内なる治癒力:こころと免疫をめぐる新しい医学.大阪:創元社,1990.
3. なかにし礼.愛人学.東京:河出書房新社,1997.
NEXT>>