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ハイク・イント
●秋刀魚
サンマ科の海産の硬骨魚。全長約40センチメートル。北太平洋に分布し、晩夏、北海道から南下し、秋、千葉県沿岸に達する頃には美味。
●目黒の秋刀魚
落語のひとつ。ある殿様が鷹狩りの途中、目黒の農家で供せられたさんまの美味が忘れられず、後日家臣に所望したところ、蒸して脂を抜いたりしたためすこぶるまずく、「さんまは目黒にかぎる」といった話。
●佐藤春夫
詩人・小説家。和歌山県生れ。慶大中退。与謝野寛・永井荷風に師事、「殖情詩集」など古典的な格調の抒情詩で知られ、のち小説に転じ、幻想的・耽美的な作風を開いた。

2003.September
江戸の空東京の空秋刀魚買ふ
摂津幸彦 [1947-1996 兵庫県生まれ]
【新日本大歳時記・秋】 1999年所収


 さて、暦の上では秋です。皆さんは、秋の食べ物といえば、まず何を思い浮かべますか?小生はなんと言っても「秋刀魚」です。では大好きな江戸落語「目黒の秋刀魚」に敬意を表して、落語風に話を進めてみます。
 えーさんまとは、細長いサカナの意の狭真魚(さまな)が訛ったといわれておりまして、字で書くと「秋刀魚」。細長いからだに、くちばし状の両あごを持ち、背は青黒く、腹は銀白色、秋に美味。秋の刀の魚で、秋刀魚でございます。名は体を表すとはまさしくこのこと。
 秋刀魚を焼くと脂が飛びますが、話も飛びます。脂がのった秋刀魚も歯無しでは食べられないことなんぞ、皆さん先刻御承知。さて、秋刀魚同様、歯も名は体を表すというお話。
 口をぽかんと開けて、まず見えます歯は、いわゆるまえば。ノミの形をしていて、切るのに都合がいいから切歯、口の入り口に立っていると言うことで門歯。なるほど、うまいことを言ったものです。切歯に続く歯は犬歯。この犬歯、denscaninusの直訳のようですが、その昔は牙の歯で「牙歯」と書いたとも聞きます。あとに続きますは、臼の歯で臼歯。そんなこと誰でも知ってる?
 それでは、ここで、ためになることをお教えしましょう。切歯に犬歯に臼歯とは、形からの名前ですが、この形、味わえる食べ物も教えてくれます。実は切歯は野菜、犬歯はお肉、臼歯は米や豆というわけであります。しかもそのバランスは、主食(穀類・豆類)は臼歯が4本で4、副食は肉は犬歯で1、野菜は切歯で2という具合です。主食が4で副食が3、本来はこの割合がいいようですな。それにしても人間様の歯の知恵とはエライものです。このバランスを守っていれば、ムシ歯にはならない?なんてことは、ないようですが・・。
 さて、秋といえば秋刀魚、秋刀魚といえば、この人の詩を忘れちゃいけない。そうです、佐藤春夫。名はサトウでも甘くない、佐藤春夫は苦いか塩つぱいか。「あはれ 秋風よ」で始まる、かの有名な「秋刀魚の歌」であります。

 さんま、さんま、
そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんま食ふはその男がふる里のならひなり。

 悲しいような、苦いような詩であります。さて、お殿様も同じ御意見のようですが、やはり秋刀魚は塩焼きにかぎります。柑橘類を絞るか、大根おろしで食べるかは、意見の分かれるところ。もひとつ知ったかぶりでいいますと、なぜ塩焼きにかぎるのでしょうか。えー旬の秋刀魚には脂が16%もありまして、熱く焼いて脂が舌に残らないように冷めないうちに食べる。栄養的にもEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を多く含み、動脈硬化、心筋梗塞、高血圧を防ぎ、若返りのビタミンEを多くもつ。安くて、うまくて、体に良い、とまあ言うことなしであります。これでは、お殿様のみならず、一般大衆のわれわれであっても、食べなきゃ損。秋が来ても、秋刀魚には飽きが来ない。三度三度のオマンマに、食べても飽きが来ないということで「サンマ」と名が付いたというお話があるくらいです。秋刀魚にはアキが来るのか来ないのか、というところで、そろそろお後がよろしいようで・・・。

参考文献
1. 上田祖峯.禅と食事.東京:三省堂,1987.
2. 藤田恒太郎.歯の解剖学.第22版 桐野忠男,山下靖雄改訂.
東京:金原出版,1996.
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