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ハイク・イント
●陸鹿尾菜
アカザ科の一年草。日本各地の海岸砂浜に群落を作る。全体に緑色で、根元から枝を群生し、海藻のひじきに似る。若いものを食用。
●ズッキーニ
ペポカボチャのうち、地中海地方で栽培されるものの総称。果実や花付きの幼果をイタリア料理で賞用。
●食味(しょくみ)
食物の味。食べたときの味。

2003.July
美しき緑走れり夏料理
星野立子 [俳人 明治36年〜昭和59年]
【立子句集】 昭和21年所収


 さて、皆さん。この句をよんで、どのような料理を想像されますか?
 この緑は、料理の素材の色なのか。器に緑がふんだんにあしらってあるのか。そのテーブルコーディネートに緑が多いのか。はたまた、オープンテラスか、ガーデンカフェで、緑の中にテーブルがセッティングしてあるのか・・。昭和二十一年発表ということを考えると、やはり、素材の緑なのでしょうか。
 この季節の緑色したものを、思いつくままにあげてみましょう。
 きゅうりにオクラ、ニガウリ(ゴーヤー)に青じそ。さやいんげんに枝豆、そら豆にししとう。すだちに青ゆず、わさびに山椒の葉。カボチャにピーマン、セロリにレタス、結構ありますね。マイナーなものでは、陸鹿尾菜(おかひじき)、朴葉(ほおば)、ズッキーニ、ルッコラ。
 ここまで書いてふと思いました、これらは生の色は緑でも、料理すると・・。ご心配なく、思うにこの時季、これらの素材は、生のまま緑のまま、皿の上に登場することが多いようです。本にもこう出ています。「この季節には、トマトやきゅうり、うり、とうがん、なす、ピーマンなど水分の多い果菜が豊富に出回ります。それも、どちらかというと生で食べたほうがおいしい野菜が多く、火を通さなければ水分を逃がさずにすみます。」(「粗食のすすめ夏のレシピ」8頁より)
 ここで、ちょっと視点を変えて、かの北大路魯山人の言葉を御紹介します。
「簡単に言って、料理とは単に舌先だけで味わうものではなく、また弄ぶものでもない。耳から、目から、鼻からと、様々な感覚を動員して、「美」と「味」の調和を楽しむものだと思う。色どり、盛り方、取合せ、材料の良否と、みな「美」と深い関連性をもって考慮されています。栄養の効果という点からも「美」は見逃せない役割を担っています。「味」のことばかりを言って、その背後にある「美」の影響力に無頓着なのが、言って悪いが当代の料理人、料理研究所あたりの大方ではないでしょうか。」(「魯山人の料理王国」8頁より)
 ある雑誌で義歯食の連載をしていた頃、「義歯装着者のかたは、歯を失ったため、失われた感覚もある。そうであれば、失われていない感覚に、その美味しさをより訴える料理にしたらいいのではないか」と思ったことがあります。こう考えると、色彩や見た目も、美味しさの重要なポイントであり、食欲増進のひとつのコツのような気がします。
 最後におまけをひとつ。「夏料理」の句をもうひとつ見つけました。

 大き樹に大き空ある夏料理   浅田青篁

 この句の解説に「ついでに作者の所在北海道を思い浮かべるなら、一段と食味を加えるだろう」(「現代俳句歳時記」85頁)とありました。となると、冒頭の句にも、ひょっとすると、目に映る景色の緑がふくまれるのかもしれませんね。
 宮崎には「冷や汁」という夏料理があります。あなたの夏料理は何ですか?

参考文献
1. 大岡信.新編折々のうた.第二.東京:朝日新聞社.1985.
2. 幕内秀夫 他.粗食のすすめ夏のレシピ.東京:東洋経済新報社,2000.
3. 北大路魯山人.魯山人の料理王国.東京:文化出版局,1980.
4. 飯田龍太.現代俳句歳時記.新潮選書.東京:新潮社,1993.
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