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医歯薬出版「歯科技工」
2004.10月号に掲載


ハナさんは、友人のエー子と京都に向かう列車の中にいた。二泊三日で紅葉狩りを楽しもうという趣向である。

「エーちゃん、見て見て、あそこに奇麗な紅葉!」

「やっぱり、旅はいいわねえ。温泉に御馳走に、いい景色」

「ねー、ちゃんとデジカメもってきた?」

「デジカメと言えば、サッちゃんのこと聞いた?」

「聞いたわよ、旅行の行きがけに入れ歯落として割れてしまって、さんざんだったんだって」

「そりゃそうでしょうよ。歯がなければ、御馳走はもちろんのこと、集合写真にも入れないわね。カラオケだって無理よ」

「くわばら、くわばら。ねえ、ちゃんと予備の入れ歯持ってきた?」

「もちろん。カラオケ用も!」


「ハナちゃん、趣味の入れ歯って、どんなのがあったの?」

「他人のことは、言えないけど、今のお年寄りって、元気だわね。よく聞くのが、水泳入れ歯かなあ。息継ぎの時に、飛び出てしまうことがあるんだって。スキューバダイビング用の入れ歯って言うリクエストもあったわ。あと、詩吟、長唄。尺八入れ歯なんてのもあったわよ。尺八を吹く時って、独特の口にするでしょう」

「それじゃあ、フルート入れ歯なんていうのもありかもね」


「エーちゃん、あなた留守してたんじゃないの?電話するけど、居なかったわね」

「こないだの京都旅行以来、旅行づいちゃって。また旅に出てたの。ところでハナちゃん、相談があるんだけど。もうすぐ新蕎麦の季節でしょ。そこで蕎麦好きの知り合いに聞かれたんだけど、お蕎麦入れ歯なんて、できないの?その歯医者さんに、ちょっと聞いてみてよ」

「んー、お蕎麦入れ歯ねえ。わかったわ,聞いてみるわ」

「さすが、入れ歯アドバイザー。ありがとう、恩に着るわ。はい、これお土産ね」



 つづく

■参考文献
セス・ゴーディン:「紫の牛」を売れ! ダイヤモンド社,東京,2004.
STONE,J.,GROSS,J.:PACKING. ALFRED A.KNOPF,Inc.1998.
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