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医歯薬出版「歯科技工」2004.9月号に掲載


「エーちゃん、きれいな葡萄だこと!」

友人のエー子が持ってきてくれた包みを開けると、ハナさんは思わずこう言った。

「きれいなだけではなくて、美味しいのよ、この葡萄。この前の入れ歯のお礼よ」

「早速いただくわ。あなたの言うとおり、美味しいものは、確かに美しいわね」

「実は、私の入れ歯もそうなの。今度作っていただいた入れ歯は、美味しく食べられて、しかも美しいのよ」

「エーちゃん、あなた、もともと美人だったから(笑)。美味しく食べられる入れ歯って、あなたの口に調和してるってことなんじゃない。調和しているから、違和感がない、だから美しく見えるのよ、きっと」

「ところで、あなたが言ってた美人入れ歯だか、美顔入れ歯だか。友達に話したら、詳しく聞いてこいって。ねえ、教えてちょうだいな」

「えっ、もう他人にしゃべったの?」

「はっきり言うけど、みんな、美しくなることには貪欲なのよ!」


「ハナちゃん、もったいぶらずに、教えなさいよ。あなた入れ歯アドバイザーなんでしょ!」

「話すわよ、その歯医者さんの話の受け売りだから、正確に伝えられないかもしれないけど。やはり一番多いのが『シワ取り入れ歯』だって、『この縦ジワなんとかならない?』というような口元や唇にできるシワ取りの希望だって」

「コブ取り爺さんの話じゃあるまいし、そんなことできるの?皮膚を引っ張るのなら、わかるけど、入れ歯で可能なの?」

「ある程度は、入れ歯でもできるみたいよ。頬をふくらませたいという希望(ふっくら入れ歯)も、結構あるそうよ」

「わかる気がするわ。頬がこけたら、よけい老けて見えるもん」

「他には、口紅を付けたときに、唇の左右の形がいびつだから、揃えてほしいとか(口紅入れ歯)」

「そりゃそうよ。女性にとっては大事なことね」

「あとは、もう少し白い歯にしたい、汚れの付きにくい歯にしてほしい(美白入れ歯)」

「へえー、やっぱり女性は、美に対しては貪欲ね(笑)」


「エーちゃん、あなた、とろろなんか食べてどうしたの、夏バテ?」

「とろろは、お肌にいいんだって!」

「……」



 つづく
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