next page no.1 no.2 no.3 no.4 no.5 no.6



クインテッセンス出版
「歯医者さんの待合室」
2004年4月号に掲載



 皆さんも、不思議と思いませんか?花見といえば、桜で、お酒がつきもの。
 花であれば、梅、椿に始まり、桜、菜の花、チューリップ。藤に躑躅に菖蒲、朝顔、向日葵。菊に萩に曼珠沙華。四季折々あります。なのに、桜だけちょっと特別扱いなのはなぜでしょう。まずは桜の「意味」からお話ししましょう。
 さくらは「さ」と「くら」を合わせたもので、「さ」はもともと神様の意味をもつそうです。「くら」を辞書でひくと「座」の字が出てきます。もちろん鞍も同じ語源です。すなわち「さ」(神様)の居ます(くら)花ということで、めでたいわけです。めでたいからお酒を飲むのか、お酒を飲むからめでたいのか。一方酒は「さ」と「け」から成り、ほろ酔い気分でさの気(け)になることで、神様と一体になったような、気(け)になる飲み物だから酒というのだそうです。
 実は、この「さくら」は洋の東西を問わないようです。シリコンバレーで有名なカリフォルニア州の州都、サクラメント(Sacramento)の本来の意味は、元来、キリストによって定められた宗教上の儀式のことだそうです。スペイン、バルセロナにあるガウディの代表作・サクラダファミリアの「サクラダ」も語源は同じです。つまり、東洋においても西洋においても、「サクラ」とは聖なるという意味を含むと言ってもよいでしょう。不思議ですね。
 では、今年のお花見は、先ほどのSacramentoのもう1つの意味、「聖餐用のパンとブドウ酒」にちなんで、桜を愛でながら「ワイン」といきましょうか。桜の花の色に敬意を表して、ロゼワインはいかがでしょう?シャンパーニュのロゼも似合うと思います。
 もちろん下戸の方には、花より団子で、甘いモノをご用意いたします。桜餅にうぐいす餅。熱めのお茶と和菓子。日本に生まれてきて良かったと思う瞬間です。桜餅の生みの親は、東京向島の長命寺の山本新六という人で、秋になると、落ち葉の掃除が大変で、この葉っぱの利用を考えた末の桜餅だそうですよ。
 さて、冒頭の謎ですが、本を読んでいて、おもしろい文章を見つけました。「花見とそれに伴う酒宴は、元来桜に限ったものではありませんでしたが、戸外での暖かさも加味されて、桜の酒宴が定着してきたのでしょう。加えて、桜だけの特質が、ヒラヒラと舞い散る『落花』です。古来、落花は儚いものではなく、むしろ静かに激しく蕩尽される生命そのものの、充実したイメージとして人々をうったと思われます。」(大野晋ほか『日本語相談2』より)ということだったのですね。






【参考文献】
1. 1.大野晋ほか.日本語相談. 2 東京: 朝日新聞社.1990;163-166
2. スタジオ・ニッポニカ編.百分の一 科事典・サクラ.東京:小学館.1998
NEXT>>