院内新聞である『ハナ通信』、これがまた面白い。歯科にありがちな、ワンパターンの結論とは無縁で、車内で読みながら、笑いをこらえるのに苦労しました。
冒頭の、「美しき緑走れり夏料理」「梅雨深し煮返すものに生姜の香」「たくあんの波利と音して梅ひらく」引用の一句に、食の味わいがじんわりと、ぴりっと広がってゆく。
居酒屋風の「五円屋」さんで、義歯食のフルコースをいただく。ネーミングが奮っている、「海千山千」「ねぎらい」「ほね作」「大入り満点」「福俵」。マスターの松井一さんと河野先生のアイデアの二人三脚で出来たメニューを紹介すると
ねぎらい・・・骨ごとミンチした地鶏を太めの自ネギの芯を抜いて詰め、炭火焼き
福俵・・・厚揚げの中に山芋、納豆、チリメンを詰めて炭火で焼いたこぶりの俵
ほね作・・・豚の軟骨を、味噌ザラメ、醤油、大根の輪切りなどと2時間以上煮る
「義歯食」という言葉から連想する、刻み食、とろみ食とは全然違っていて、噛みごたえも歯ざわりもある。
義歯度のポイントは?
河野 栄養や低脂肪はもちろん、歯ざわりも。歯ざわりは、どこで感じると思いますか?
ウ〜ン、歯にあたる感触…でしょうか
河野 触覚と耳、聴覚ですよ。バリッバリッ、サクサク、耳でも楽しんでいます。
口腔粘膜が義歯床で覆われて味覚が減ると言われていますが、舌で味わっているのに、舌は覆っていません、実はそこの所はよくわかっていないのです、義歯と味覚の研究論文はまだ見たことがありせん。
味がわかる、わからない、と言うのは、痛みや違和感と深く関係しており、痛みがあると、痛みの情報が三叉神経を先に占めてしまい、味わう情報が流れません。だから「何を食べても砂を噛むような」その通りなのです。ティッシュコンディショナーで痛みや違和感をとってあげると、味の情報が流れ出します。
そこまでは歯科治療…
河野 私は「おいしい」までを自分の治療と考えています。口腔内の機能が低下しているのなら、味覚、触覚、聴覚、視覚、嗅覚、そこを強調して、おいしく食べよう。
あっ、わかってきました。例えば、視力を失うと、それを補うように聴覚や指の感覚が鋭くなる…あれですね。
河野 そうです。マスターによると、お客と話をしながら、腹具合や気分や好みを察して、そのときに丁度いい料理を次々に出していくことは、プロの料理人がやっていること。だから義歯食も特別なことではありません。
後藤 栄養士さんの中には、義歯=食べられない=軟らかい食事を出されます。しかし、刻み食を食べても、おいしさを感じないそうです。ご本人はそれまで普通のものを食べていたので、さらに年をとったような気になるそうです。
義歯食は「おいしい」にこだわって・・・
河野 患者さんとの食事会では、私達と同じものを何でも食べていらっしゃいます。
食べられる、食べられないよりも、あなたのことを考えてこの食事を作りました、義歯装着者への思いやりだと考えています。
メニューに義歯食とあれば、ペリオの人だって、これ食べてみようかなと思うでしょう。外で食べることがもっと楽しみになりますよね。
後藤 先生は、私達にもおいしく食べることに、日頃からこだわって欲しいと言っています。
河野 私達は口の専門家な訳ですから、一緒に食べながら、リハビリやトレーニングをアドバイスしたり、料理や食べ方にまで口をはさむ必要があるだろうと考えています。
「おいしい」にこだわろう!その応援をしようということですね。
本日は、本当にこちそうさまでした(笑)。
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