[義歯は人伝] |
卒業後間もなく臨床に携わるようになり、カリエスの多さに嘆き考えました。「ムシ歯」にならない究極の食事があるはずだ。この視点で食べ歩いていくうちに、日本料理のしかも京料理にたどり着きました。そして7年前に京都・円山公園の「いもぼう」に立ち寄った時のこと、えびいもの形がしっかりして煮くずれしていないにもかかわらず箸がすっと通る。その時、この「義歯食」がひらめきました。 総義歯装着者の味欲(味わうことに対する欲求)を充分に満たす料理が創れるのではないか。総義歯装着者がよりアクティブになり、今まで箸をつけなかった人が「食べてみようか」と箸を伸ばす。高齢化社会から、いつしか高齢者社会になりつつある今、家族みんなが同じものを「いただきます」で食べ始め、「ごちそうさま」で食べ終わる。あたりまえのことがあたりまえに営まれる。 総義歯に対する、患者さんや歯科医師、歯科技工士および社会の認識がより高まればと思い、さらにメニューを増やしてゆきたいと思います。 実は今を遡ること5年前、次の文章を院内新聞に書いておりましたので参考までにご覧下さい。 |
義歯食=ぎししょく |
文字通り、義歯・入れ歯、とくに総義歯(自分の歯が1本も無い人の入れ歯)で味わえる食事のこと。 味わうためには、味覚、触覚、聴覚、視覚、嗅覚の五感を必要とする。さらに嗜好を加えたい。データによると、総義歯では自分の歯の25%しか味わえないという。そこで義歯食の登場である。総義歯でより味わうために、総義歯の弱点をカバーし、味わい深い料理をめざす。現在日南市油津の五円屋において開発中であり、次のメニューがある。「福俵」「海千山千」「ほね作」「芋金」「子宝」の5品で、順次ハナ通信で発表する予定。(ハナ通信1992年7月号より) 現在、開発中も含め12品ありますので、簡単にレシピを載せておきます。 |
福俵 |
【福俵】 厚揚げの中に山芋、納豆、チリメンを詰めて炭火で焼く。俵の大きさを小ぶりに。(油をおとすために焼く) 【海千山千】 【ほね作】 |
海千山千 |
【芋金】 旬のさつま芋を蒸して裏ごしし流しカンに入れて一日置く。食べやすい大きさに切り、少しこげ目がつくくらい炭火焼き。 【子宝】 【ねぎらい】 |
親子三代 |
【親子三代】 骨ごとミンチの地鳥ミンチボールと、卵を使った鳥のスープ。だし、ミンチボール、卵で三代。 【半熟鳥】 【骨まで】 |
大入り満点 |
【ゴーヤーテンプラ】 にがうりをスライスして冷凍し、軽く衣をつけて揚げる。塩をかるくふる。 【大入り満点】 【熱燗鍋】これは現在試作中。 |
最後に蛇足をひとつ。この春スイスはチューリヒに義歯の勉強に行った時のこと。2日目の午前中講義を受け、スイス人の先生をまじえ昼食へ。近くのレストランで、ふとそばのテーブルの御婦人(おそらく総義歯)を見ていると、あたり前のことながらフォークとナイフを使っての食事。その御婦人はフォークとナイフを使い、御自分に合った大きさにして口の中へ。ひょっとしたら、フォークナイフ文化圏には義歯食は必要ないのかも。咀嚼可能な大きさに皿の上で調整してから口の中へ。 さらにもうひとつの発見。フォークで食べ物を口に運ぶ時、その場所は小臼歯。箸文化圏では筈でつかんだ刺し身は前歯部で口の中へ。フォークナイフ文化圏ではポステリアガイダンス。箸文化圏ではアンテリアガイダンス。ということは、箸文化圏の総義歯が一番要求が高い。やはり総義歯は食文化をふまえての学問、医療だと痛感いたしました。 九州歯科大学同総会報 |
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