1996年に初めてフランスボルドーのワイン生産者に触れてから、毎年のようにいろんな産地に赴き、今年は、9年振りにドイツを訪問してきました。よりワインの味だけでなく、文化や食生活、人を通してワインに関わる奥行きをこの10年余り感じてきた事もあり、9年振りの訪問は、あまりにもいろんな事が深く理解でき、見えなくてもよいところまで感じてしまい、整理する必要があると思い、文章としました。
モーゼル川流域の小さな村の上の方に急斜面の葡萄畑が広がります。そのため畑の手入れや収穫など、過酷な作業です。ただその過酷以上のまじめな取り組みが、ワインの味に反映されます。味は正直です。今回の旅で一番感じたのは、残酷かもしれませんが、味のレベルの限界です。
次の三つの事例を紹介します。
ワイン造りをしている父親と2人の息子がいます。15年前に父親から独立した長男は超有名な父親へのライバル心からか、かなりの努力をされ、父親にも劣らずすばらしいワインを造っています。もちろん父親とは違う畑を所有しているので土壌の違いから性格の違う味わいになっています。
父親の隠居にともない、後を継いでいる次男がかなりの畑を相続し、いくらかを長男が引き継ぎました。そこで引き継いだ同じ畑名の2人のワインを試飲しました。明らかに同じ畑名のワインだと広い畑を所有する次男の方が上でした。
そこで私は9年前の父親に質問した内容を思い出しました。私はその時、「なぜ良い畑同士なのに生産者によって味わいのレベルに差がでるのか?その理由は?」と投げかけました。すると父親は「良い畑を広く所有しているから」と答えました。その時はそれ以上聞けませんでした。
その答えを今回味をみて理解する事ができました。要するに広ければ、収穫時により良い葡萄をセレクトする事ができるという事です。どんなにすばらしい造り手でも同じ様に畑に対する仕事を丹念にすれば、広さにはかなわないという事です。つまりワインを造る過程において、集約した良い葡萄を造る事が、一番大事だという事です。
だから良い生産者は1年のほとんどを畑に費やすのです。
二つ目の事例ですが、彼は伯父さんのワイナリーをワイン研究所で勉強も続けながら、手伝っています。彼が加わってワインの品質が上がってきていたので、興味深い話が聞けると楽しみに今回訪問しました。早速、2006年産のワインを試飲しました。
「これはひどい」どうしてしまったのか?彼は味のコメントはしませんでしたが、2006年の収穫時の事を話し始めました。10月の初めの雨によりボトリティス(貴腐菌)が付 き、急速に葡萄が縮み出し、早急に収穫しないといけなくなった。例年だと1ヶ月かけるところを2週間足らずで収穫を終わらないといけ ない。そのため今回は葡萄のセレクトをする時間がなかったと!
そういう事か!それに対して伯父さんの手前淡々と話す彼。でも他の良い生産者達はその同じ状況の中でセレクトしているわけだから、たぶん伯父さんの指示だったのだろう。セレクトできなければこんなにも違うのか!結局どんなに知識を磨き、技術的な事を駆使してもより良い葡萄からしか良いワインはできないという事だろう。ワインの味はほんとに正直である。
彼の立場もあるので、この事は伝えなかったけど、彼のワインに取り組む姿勢を思えば、今後も見守っていきたいと思います。
さて三つ目の事例ですが、彼のワイナリーは個人生産者としては、ドイツで1番大きいとの事。彼の2000円ぐらいのワインは、品質的にもとても繊細で価格パフォーマンスもすばらしい。その事も彼自身よく理解しており、リーズナブルな価格 になる様努力しています。
たとえば、収穫時、ポーランド人を雇う。それは、ドイツ人を使うより時給で1/3程安い。「もしポーランド人が来なくなったら、うちはダメだろう」と言っていました。
上のクラスのワインも試してみました。悪くはないけど、きめの細かさが足りない。上のクラスになるとより葡萄のセレクトを含めた人の手による丁寧な仕事が必要になってくると言う事でしょう。これが、大きすぎるワイナリーの限界なのかもしれません。私自身、過酷な仕事の上にここまで求めるのは酷だと思うけど、ワインを試せば、そのまま味に出ているからどうしようもない。
この3つの事例を見ていくと
1、良い畑をある程度広く持っていること。ただし、機械での収穫ではなく、自分の目が届く範囲内の広さ。
2、葡萄のセレクト。もちろん、他の基本的な努力、たとえば農薬の問題、剪定、グリーン ハーベスト等良い葡萄を造るための最大限の事をした上での事ではあるが。
ただ、ワインを気軽に飲んでいただくためには、リーズナブルな価格も 大事で、大きな生産者でもそこで出来うる最大限の努力をし、価格に見合った品質であれば、消費者にとって有り難い事です。そういうワインが消費者にワインのすばらしさやワインの普及に大いに貢献している事を考えれば、著名な生産者でもその上にワイン文化が成り立っている事を謙虚に踏まえ、もちろん私達も味の追求だけでなく、全体的にワイン市場が活発化する様、努力する必要があると考えます。
筆者紹介 ヒロシとは?
岡山 宏 おかやま ひろし
1977年鹿児島県立甲南高校卒業。1982年熊本大学工学部合成化学科卒業後、三共株式会社入社。1987年三共株式会社を退社し帰鹿。岡山酒店後継。1990年店舗新築後、ディスカウント店としてスタート。1997年月酒専門店として再オープン。現在に至る。
岡山酒店
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