2003.10.02
「観月会記」
 去る長月の十九日に、月の隠れた夜空のもと、猪崎鼻荘にての観月会でした。二市二町の十医院から十四名の参加で、テーブルにところ狭しと並べられた、山の幸・海の幸の料理もさることながら、やはりメインイベントは「歌会」であります。ここで、初参加、若輩者でありながら、ちと、他人様の詠まれた歌に、恐れ多くも横槍を入れてみたいと思い、ペンを取りました。御本意と異なる横槍に関しては、どうぞ、月に免じてご容赦を。
 宴もたけなわ、酒もビールも五臓六腑にしみわたった頃、幹事役の日高先生が、マイクを持っておっしゃいます。「今から短冊を配りますので、ひとつだけ、いいですか、ひとつだけを表に書いてください。裏には、そのうたの解説と名前を書いてください。」
 初参加ゆえ、事情が分からず、見回しますと、なにやら皆さん、懐よりメモを取り出す風情。あらかじめ発表されていた「栗」と「雲」の御題を詠み込んだ歌を、すでに御準備の様子。小生、宿題と認識しておらず、オロオロ。他の先生方の気合いに圧倒されました。
 短冊に書き終わり、回収後に、無記名での発表。大きな紙に書かれた十二の作品が、健次先生によって滔々と詠み上げられます。その後、ひとり三つまでの人気投票の結果、松竹梅を決定いたしました。まずは、その松竹梅よりのご披露。(文中敬称略)

栗はじけ 四季の流れに身を置けど 今だ届かぬ 北風便り

 これは、未だ帰国できない拉致家族のことを詠んだ歌だそうです。感動します、じーんときます。みんながいつまでも「待つ」で、「松」の受賞か?
横槍→ では、少々横槍をいれます。まず「栗はじけ」、これは「栗はぜし」の方が、次に続くのに良いでしょう。「四季の流れ」この「四季」に「とき」とルビをふるのもいいかもしれません。今だは、「未だ」が正しい用法です。最後の「北風便り」は、しめる意味でも「の」をいれて、「北風の便り」がベターでしょう。
横槍済み 「栗はぜし 四季(とき)の流れに身を置けど 未だ届かぬ 北風の便り」

空の雲 見上げては過ぐ 秋の日々 近頃急に 昔懐かし

 子どもも巣立っていった。ふと見上げると秋の空、子どもたちの声がしていた頃を思い出す。というような解説だったと思います。
横槍→ 空の雲は、「いわし雲」でもいいでしょう。見上げては過ぐの「過ぐ」は「行く・ゆく」の方がベターかも。行くになると、雲が行くと日々が過ぎゆくの両方に、しっかり掛かります。最後の懐かしはひらがなで。
横槍済み 「いわし雲 見あげては行く 秋の日々 近頃急に 昔なつかし」

あざやかに 一本決めて 金メダル いが栗頭の 郷土のヒーロー

 これは、ご存じ井上選手のことですね。
横槍→ 非常にリズム感のある歌です。それは、句の頭が「あ」「い」「き」
「い」「き」と、音韻をふんでいるからです。

旅好きの父をしのびて 山路ゆく 足元に落つ いがぐりひとつ

 ご本人が、山登りの最中、ふと足元に見つけたいがぐり。その瞬間に、今は亡き父を思い出す。
横槍→ しのびて・ゆく、ともに主語は作者です。そうすると、「足元に落つ」では、いがぐりが主語になります。そこで主語をそろえるために、「足元にみつけし」ではいかがでしょう。「足元にみつけし いがぐりひとつ」で主語はすべて作者自身です。またそのことによって、足元のいがぐりが、より客観的存在となり、愛する父亡き今、残された自分自身を、そのいがぐりに投影することもできます。
横槍済み 「旅好きの父をしのびて 山路ゆく 足元にみつけし いがぐりひとつ」


 以下、おしくも選にもれた傑作を順不同で紹介いたします。


旅好きの父をしのびて 山路ゆく 足元に落つ いがぐりひとつ

 読んだままの意味でしょう。
横槍→ 何気なく読み過ごしてしまう歌です。よく読むと、視覚、聴覚、視覚、嗅覚を刺激してくれる歌です。真っ青な空に一筋の飛行機雲で、秋の空の清澄感が伝わってきます。この清澄感は嗅覚をも刺激してくれます。また、上の句を続けて書かれたことによって、一気に詠ませる。これも効果的です。「見上げれば」は「見上ぐれば」がベターでしょう。また、最後は「飛行機の雲」と「の」を入れた方が、締まります。
横槍済み 「見上ぐれば音を求めて真っ青な 空に一筋 飛行機の雲」

秋の雲 夏の雲らの 兄貴だな

 これも読んだままの意味でしょう。
横槍→ まずこれは、「ら」が非常に生きています。この「ら」の存在により、この句は引き締まっています。秋、夏とくることで、時の流れを表し、「兄貴」という言葉で、歳月の流れを連想させる。最後の「だな」は「かな」のほうがいいでしょう。
横槍済み 「秋の雲 夏の雲らの 兄貴かな」

猪崎鼻 十八年ぶりに 雲晴れて 出現(でて)きた島は トラのたて縞

 これは、阪神タイガースの優勝の歌ですね。
横槍→ 猪崎鼻が、最初に出てきていますので、イノシシを使うのも、ひとつの手かもしれませんね。
横槍済み 「猪崎鼻 十八年ぶりに 雲晴れ出ずるは イノシシならぬ トラのたて縞」

栗のイガ バラのとげは いたいけど
           悪女のひと刺し 刺されてみたい

横槍→ いかにも、その場で間に合わせに詠んだ歌。解説に値しない。

甘栗や 淡く映りし 鰯雲

 すっとまとまっています。中村汀女の句に「ゆで玉子むけばかがやく花曇」というのがあります。その秋バージョンのような句ですね。
横槍→ あえて、変えるならば、汀女の句に習って、「淡く映りし」を「あわくうつりし」でしょうか。
横槍済み 「甘栗や あわくうつりし 鰯雲」

栗まんじゅう 一人で2コは イケますよ

 今風の、口語調の俳句ですね。
横槍→ 後半で「一」「2」「コ」「イケ」などが、バラバラ感を出していますので、「栗まんじゅう」は「栗饅頭」としたほうが、グッと締まるかもしれません。
横槍済み 「栗饅頭 一人で2コは イケますよ」

雲も切れて 迷うことなき 我が道を 切に歩まん 還暦むかえ

 これもきれいな歌です。
横槍→ はじめは「雲切れて」がベターでしょう。
横槍済み 「雲切れて 迷うことなき 我が道を 切に歩まん 還暦むかえ」

連日連夜の事件事故 行く末案ずる 雲の切れ間に

 詠んでの通りの歌です。
横槍→ 行く末」は「ゆく末」の方が良いかもしれません。前半で漢字が続きますから。「行く末案ずる」で、ちょっと暗い気持ちになり、「雲の切れ間に」と締めくくることで、その情景が目に浮かぶようです。
横槍済み 「連日連夜の事件事故 ゆく末案ずる 雲の切れ間に」

こうせいの 名を残せよと いがぐりの トラトラトラの大阪の陣

 これも、井上こうせい選手を讃えた歌ですね。
横槍→ 「こうせい」に「後世」を掛けるならば、「こうせいに」がいいでしょう。また、小技ですが、大阪の陣は「大坂」の方がベターでしょう。
横槍済み 「こうせいに 名を残せよと いがぐりの トラトラトラの大坂の陣」

おーい雲よ どこまでいくんか? あん? しらんが!!

 ここまでいくと、口語調と言うよりは自由律の俳句でしょう。尾崎放哉が有名です。まさしく「雲悠々」の境地ですね。

 というところで、ビンゴやじゃんけんゲームなどもあり、月見えぬまま、和気藹々の一夜でした。