デンタルエコー vol.127
2002年5月24日発行

連載●第9回


青年会議所に学ぶ

 さて、今回は診療室の中から、外に目を向けてみましょう。第一回でご紹介した「THE LITTLE HOUSE」の主人公のちいさいおうちは、あまりにも変化した周りにの環境にしだいしだいについていけなくなって、こう、なげきます。

『さあ こうなると、ちいさいおうちに お日さまが
みえるのは、おひるのとき だけでした。
     そして、よるは お月さまも
ほしも みえません。まちの ひが あかるいからです。
ちいさいおうちは まちは いやだと おもいました。
そして よるには、いなかのことを ゆめにみました。
いなかでは、ひなぎくの はながさき、
りんごの木は、月のひかりのなかで おどっていました。』


                    (本文30頁より)

バージニア・リー・バートン 文・絵
「ちいさなおうち」岩波書店


●社会の変化にどう対応するか

 つまり、社会の変化に対応できなくなってしまいました。社会性という言葉を、辞書で引いてみますと、社会性=社会全般に関連する性質、とあります。
 社会は、この十年間で驚くほどに変化してきています。変化した数多くのもののひとつに、価値観の多様化があげられるでしょう。
 先日、元NHKアナウンサーの山川静夫さんのご講演に、大晦日の紅白歌合戦の視聴率の話が出てきました。そのむかし、大晦日には家族みんな炬燵を囲んでミカンでも食べながら、紅白を見ることが定番であり、視聴率は70パーセントを超えていたそうです。それが、山川さんが9年連続司会を担当された最後の年に、70パーセントを切ってしまった。その後、多少の変動はあったものの、今や五割前後でしょうとゆうことでした。その最大の理由は、大晦日の過ごし方の多様化であるとおっしゃっていました。

●変化しないものを知っておく

 さて、社会の価値観の多様化を、すべて受け入れることは不可能ですが、多様化したことの多くを知ることは、決して不必要なことではないと思います。もちろん変わらないこともありますが、社会の常識は、価値観同様つねに変化します。その変化をその都度、的確にとらえられるということが、時流に乗るとも言えましょう。
 社会の常識・業界の非常識、業界の常識・社会の非常識ということも、ままあります。
 変化を知るためには、変化しないものを知っておかないと困難です。日本語の変化・乱れに気付くためには、従来の正しい日本語を知っておく必要があります。

●井の中の蛙が大海を知る場

 ニコラは、25年ぶりに生まれ故郷に帰ってきて開業しました。25年間のブランクは、同世代の友人・知り合いがいないということで、そのブランクを補うために青年会議所に入りました。青年会議所で得たものは、数多くの友人であり、何か、ことを起こすときの原理原則でした。社団法人とはなんぞや、会議の本来のスタイルとは、協議・審議とは‥等々。そうして、その会議所であつかう中身は毎年変化します。数年先を見越した内容であることもあります。変化しない原理原則をふまえて、変化する世の中のことを、討議する。格好良く言うと、こうなるのでしょうか。もちろん、青年会議所以外にもいろんな、団体、グループ、サークルはあり、それぞれに良さや価値はあると思います。ここで、強調したいのは井の中の蛙になるなとゆうことです。
 社会性をもつ、簡単なことです。まず、名刺をつくって常に携帯する。インターネットに興味のある人は、ウェブ上の名刺でもあるホームページを立ち上げる。診療所の前の歩道を掃除する、etc。これから先、今まで以上に世の中は変化し、変化するスピードは増すでしょう。そうであればあるほど、より社会性を高めることは、もっともっと必要になるような気がするのですが・・。



ちょっと気になるあの仕掛け −9−


プラチナよりプラスチック

 その昔、「ゴールドや、プラチナよりプラスチック」というようなコピーがありました。補綴物の材料の話かと思いきや、さにあらず。クレジット会社の宣伝コピーでした。他社のゴールドカードやプラチナカードよりも、我が社の普通のカードの方が価値がありますよという内容です。

診察券「うちは作らない」

 開業の時、カード・診察券について考えました。学生時代に近くの食堂のおやじさん曰く「安っぽいカードならつくらんほうがいい、中身まで安っぽくなる」。そのお店のポイントカードは、しっかりした紙で作ってあり、デザインも気の利いたものでした。この言葉が、耳に残っていて、作るべきか否か悩みました。
 開業時には、立派なカードを作るお金や、時間の余裕など全くありません。そんなとき、ふと、女性の財布が目に浮かびました。はっきり言って、男性の財布より太っています。色々なポイントカード、クレジットカードに、買い物のレシート、種々の割引券などなど。結局、「うちは作らない」でした。
 診察券がありませんから、来院時にはお名前を書いてもらっています。前置きが長くなりましたが、今回の仕掛けはその名前を書く紙についてのお話です。始めは、出入りのコンピューター会社の方から頂く、横線の引いてある左右で20人ずつ、40名の名前が書ける紙を受付に置いていました。横線だけでは味気ないだろうということで、横線にちょっとしたイラストをあしらった自家製記入用紙をニコラ・シカで作りました。

プライバシーも守る

 ある時、ふと記入中の患者さんを見ると、ご自分より前に来られた方の名前を読んでいらっしゃるご様子。これはいかんと、次の日からひとり一枚、名前を書いていただいたら、日めくりカレンダーよろしく、すぐ破る。ひとり一枚日めくりカレンダー方式に変えました。さてその紙は?新聞に入ってくる折り込みの裏です。どこの家庭にもある、折り込みの広告の裏ですが、横線の欄がある記入用紙や、かわいいイラストをあしらったお手製の用紙よりも、良い点があります。それは、プライバシーの保護ということです。
 材質や質感よりも、使い方そのものが問われることもある。皆さんはどう思われますか。


少・年・易・老・学・難・成

【その9】テレフォン人生相談に学ぶ

 数年前のこと、ニコラ・シカの裏に大きな家が建ちました。その家の建築中のことです。お昼前、11時過ぎると、大工さんのラジオのボリュームが、一段と上がります。「テレフォン人生相談」の始まりです。その昔、マイケル・ダグラス主演の「危険な情事」が、本国アメリカで大ヒットした時、ヒットの理由をある解説者が、次のように言っていました。「登場する三人はそれぞれ異なるポジションであり、この映画を見ている人は、この三人のいずれかに当てはまる可能性がある。他山の石として、冷静に見ていられなくなるほど、リアルな生活と紙一重の映画」。まさしく、「テレフォン人生相談」も、この映画に近いものがありますが、今回は、相談者ではなく、話を聞く側の技について考えたいと思います。

●患者さんの話は冷静中立に聴く

 開業当初は、人を疑う、患者さんの弁を信じないという「術」を、持っていませんでした。初診時の患者さんのお話を、まさしく鵜呑み。よし、まだまだ未熟でも、歯科医師として患者さんを救いたいという気持ちだけある・・。なんて、自分自身にハッパをかけていました。ところが、三回目からは梨のつぶて。また、次回入金しますとの言葉を信じ、未入金のままドロン。
 海援隊の「贈る言葉」の歌詞に、人を信じて傷つく方が良い・・なんてありますが、仕事の中で、自分自身が傷つくと、やはり次からは、前車の轍を踏みたくありませんので考えます。そんな時に、ヒントになったのが、人生相談の聞く側の技です。あの番組を聞いていますと、その技が端々に聞き取れます。
 まずは、極めて無表情な声で始まり、相談者の言葉をオウム返し。聞くべきことは、相談者の話を止めてでもきちんと聞く、ただし、深追いはしない。相槌は入れるが、相槌に感情は入れない。相談者の敵でもなく、味方でもなく、中立な立場で、この番組では結論は出ないということを明確にしている。話を聞き出すというよりも相談者がお腹にためていること、胸の奥深くに隠していることを、全部吐き出せることに重点を置いている、等々。
 患者さんを信じないと書くとマイナスなイメージですが、実際、臨床では、患者さんの言葉を鵜呑みにしたばかりに、その言葉に隠された真意をつかめず、その症状の第一原因の発見が遅れることもあります。言葉だけでなく、目でも訴える患者さんを前にして、テレフォン人生相談のように、冷静中立にとは、なかなかいきませんが、プロェッショナルな仕事を続けるためには必要なことかも知れません。



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