デンタルエコー vol.127
2002年5月24日発行

連載●第8回


イベントで伸ばす

 中学・高校の時に、成績を上げるためには、自分の得意科目をひとつだけでよいから伸ばすと、おのずと他の科目や不得意教科も伸ばすことができるよ、と言われました。今回はいかにしてスタッフの能力を伸ばすかについてのお話。

●なぜ飲み会幹事で練習するか

ニコラ・シカのメンバーはイベントが大好きです。平均して2ヶ月に一度の飲み会、時たまの一泊二日小旅行などをはじめ、1ヶ月おきのベイビーハッスル、年に一度のハッスル大会、年に二回のベイビーハッスル読み聞かせ会など、イベント盛り沢山です。たとえば、近々、飲み会を開催するとしましょう。飲み会のコンセプト(何のための飲み会なのかということ、こじつけ)は、ニコラが決めるとして、日程、お店、料理、持ち込むお酒、その日何時に仕事を終えるかなどは、スタッフに計画立案を任せます。くじかジャンケンで、責任者もひとり決めます。
 仕事上の企画立案で、失敗やミスが起きると(たいてい、ミスは付き物ですが)、かえってスタッフのやる気をしぼませてしまいます。伸びるためには、どんなことであっても練習が必要です。いきなり仕事のなかで練習するよりも、仕事以外のほうが練習するほうも楽なのでは・・。飲み会イベントでミスがあっても、乾杯でチャラです。
 たかが、飲み会と軽んずるなかれ。いつ、どこで、誰と、何を食べ、何を飲むのか、これはもう立派なイベントです。「一期一会」は有名な言葉ですが、その前に来る言葉が「一座建立(いちざこんりゅう)」です。たとえ、毎回メンバーは同じでもしっかり心配りされた段取りによって、その会は一期一会となるのです。
 この飲み会段取りのかくれたポイントは、必ず院長がお店に電話を入れることです。「よろしく」の一言とともに、なにげなく料理の内容をチェックして、もし不足があれば補足しておくことです。そして、乾杯。一次会が終わり、二次会になったら、場を盛り上げるために院長がまず、マイクを持つことでしょうかね。


●ゼロからの企画立案

 ドイツでは昔から、会社の社長さんは採用するときに迷ったら、兄弟の多い人を採用したそうです。兄弟の多い人のほうが気配り・心配りに長けているということなのでしょうか。イベントの企画立案をまかせるということは、気配り・心配りの練習にもなりますが、さらにシュミレーションの訓練としても効果的です。
 日常臨床において、次の一歩を読めるか読めないかがまず問われます。そうして、次の段階では、院長からの指示を待つのではなく、自分ひとりでゼロから企画立案してイベントや新事業を成功させ、いかに軌道に乗せるかが次のステップでしょう。いよいよ最後のステップは「起業」すなわち独立ではないでしょうか。




ちょっと気になるあの仕掛け −8−

駄洒落とユーモア

 歯科診療所に就職した新人さんをまず悩ますのが、器具や材料の名前です。学生時代、ある助教授は学生に何か取ってきてほしい時には、いつも「あれ、持ってきなさい」でした。ラバーボールであろうが、スパチュラであろうが、すべて「あれ」でした。助教授ならまだしも、新人さんはこうはいきません。ひとつひとつの名前を覚えなければなりません。しかも、ほとんどの器具や材料が日常生活に無関係のものが多いため、なかなか覚えられません。
 よく名は体を表すといいます。そこでニコラ・シカでは、似たモノでふふっと笑いが出るような呼称をつけています。いくつかあげてみましょう。

 金さん銀さん*これは、三倍速のコントラアングルに金色のバーを付けたものが金さんで、銀色バー(ダイヤモンドバー)がついたものが銀さんです。
 皿回しの大*ハンドピース用カーボランダムポイントの11番。いかにも棒の先で皿回しをしているかのような形ですのでこの名前がつきました。19番のポイントは皿回しの小です。
 青なすび*カーボランダムポイントの25番です。ホワイトポイントなら白なすびです。
 青のトンガリ*カーボランダムポイントの28番です。ホワイトポイントなら白のトンガリ。 青ちくわ*20番のポイントです。
 ある時、患者さんから治療が終わって質問がありました。「キンさんギンさんって、何のことですか?」。器具を見せてわけを話すと、大笑い。その方は、長寿の薬でもあるのかと思われたそうです。このポイントは何番、それは何番と味気ない数字を覚えるよりも、一回聞いただけで覚えられるような駄洒落の呼び名、聞きようによっては笑みもこぼれるユーモアあだ名。なかなかでしょう。
 ユーモアや笑みは働く人にとってストレスリリースになります。使ったタオルを丸めて洗濯機のなかへバスケットボールよろしく投げ込む。ゴミをゴミ箱へ投げ入れる。紙を破る。セロハンテープを切る、等々。破壊的な行為も、ストレスリリースにはなります。しかし、ゴミが入らなかったり、破ろうとして指に怪我をしたりすると、ストレスリリースどころかかえってストレスがたまることにもなりかねません。
 北風と太陽の寓話のように、やはり太陽、笑いのほうが良いような気がします。


少・年・易・老・学・難・成

【その8】オモチャ化する文房具に学ぶ

 真鍋博著「快適学への発想」のなかに、「オモチャ化する文房具」というエッセーが載っていました。最近、特にそう思います。ボールペン、ハサミ、ステープラー、テープカッター、修正テープ等々。色使いやフォルムのデザインもよろしく、遊び心をくすぐるものをよく見かけます。加えてその、機能性、操作性において、文房具なのか、玩具なのか境界不明瞭な文具が増えてきました。
 昔は筆硯紙墨を文房四宝と呼んで棚に飾ってあったそうですが、今ではまさしく、子供から大人までのオモチャです。すぐに壊れて捨てざるを得ないオモチャには反対ですが、きちんと機能性を持ってしっかり使えるオモチャなら、大賛成です。

「広告のお陰で、平凡な日常が唄い始めた」
「Thanks to advertising everydayness started to sing」Milan Kundera
という文を目にしました。「広告のお陰で、平凡な日常が唄い始めた」とでも訳せましょうか。どこにでもある文具が、今までよりホンの少しお洒落な文房具に変わるだけで、ホンの少し楽しくなる。
 開業して十年も経つと、以前よりは色々な余裕を実感するときがあります。しかし、笑いをとる、笑いを殖やすことは、そうたやすいことではないような気がします。ユーモアのある話、話すときの笑顔、語るときの身振りなど、なかなかどうして、実践するのは難しいようです。
 しっかりとした中身があって、しかもユーモアがあるこれは落語に通じるところがあるように思えます。ニコラは落語をよく聞きます。古典落語が好きです。お腹を抱えて笑った後に、しっかりと教えを感じます。笑いも身もある落語のように、きちんと使えるオモチャ化した文房具のように、なれる日に思いを馳せつつ、ハサミ片手に落語を聞いています。「落語とハサミは使いよう!」



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