デンタルエコー vol.126
2002年3月29日発行

連載●第7回


小澤征爾やカラヤンに学ぶ
指揮者に学ぶ


 小澤征爾がウィーンのニューイヤーコンサートでタクトを握って喝采を浴びたのは記憶に新しいところです。かのカラヤンは、60分の曲をレコーディングの為に指揮したところ、はじめ61分かかったそうです。60分にして欲しいと言われ、2回目には、ピタリ60分で指揮を終えたそうです。
 今回はオーケストラの指揮者について学びます。前回、前々回と歯科医院の運営について話してきましたが、その運営を好循環なものにするには、スタッフの存在、スタッフの働きが大変重要となることは言うまでもありません。そこで、好循環なものにするために、どのようにスタッフとつき合うのか。 
 
●trust me! 信頼してよ!
 院長が、自己研鑽を続けることは最低条件です。ニコラ・シカは3人の女性スタッフと院長です。ディズニー映画「アラジン」にもでてくるセリフですが、「trust me! 信頼してよ!」。いかに、スタッフ一人一人と院長が信頼関係をつくるかが、ポイントでしょう。スタッフ全員と院長との信頼関係ではなく、ひとりのスタッフと院長との信頼関係です。

●院長とスタッフの信頼関係
 では、いかにスタッフひとりひとりとの信頼関係をつくるのか?簡単です。そのひとりスタッフと院長の、二人だけの秘密を持つことです。秘密を持つと言ってもサザンの唄うような「秘密のデート」をするのではありません。二人だけの共通の話題を持つと言うことです。例えば、宝くじフリークのスタッフがいれば、ジャンボくじがでる頃になると、必ず、宝くじの話をする。天気予報に詳しいスタッフには、必ず、週末の天気を聞くとか。
 ここでのポイントは、
@宝くじフリークのスタッフとは必ず宝くじのことを話しますが、他のスタッフとは話さない。
A別のスタッフとの会話で、宝くじの話題がでてきたら、必ず、その宝くじ専門スタッフにコメントをもらう。
 ニコラは学生時代に、ラグビーをしていましたが、ある時、先輩に次の試合の日の天気を尋ねられました。たまたま、新聞で見て知っていたため答えたところ、その先輩は必ず試合の数日前には天気について尋ねられるようになりました。そうなると、こちらも必ず調べるように、より詳しく情報を得るように心がけました。
 では、この二人だけの秘密を持つことでどうなるのか。そのスタッフは、知らず知らずに自分自身の存在意義、診療所での必要性、院長との信頼関係などを築いていくことになるのです。

●指揮者と、監督 どちらを演じるのか?
ここで、小澤征爾に話を戻しましょう。なぜ、指揮者なのか。長嶋前監督や山本監督のようなプロ野球チームの監督を院長が演じてはダメです。院長がプロ野球チームの監督になってしまうと、院長ひとり対、三人のスタッフという構図が生まれます。小澤征爾やカラヤンは、各演奏者・各パート(バイオリン、金管楽器、パーカッションなど)と繋がっています。そして、各パート同士のつながりは希薄です。指揮者と各パートのつながりは太く、各パート同士の横のつながりは細い。もっとも、各パートをうまく調和させ、ハーモニーを作るのも指揮者の仕事ですが。プロ野球の監督になってしまうと、常に、スタッフ全員を相手にせざるをえないため、全スタッフの希望や意向を聞くとなると、最小公倍数的になり、院長自身の負担も大きくなり、スタッフ間に不必要な溝を生じかねません。
 スタッフひとりひとりのキャラクター・能力・上達のスピードは十人十色です。それを一緒くたにしても、うまくいくわけがありません。かえって、そのスタッフの能力や才能を潰してしまいます。というわけで、プロ野球監督よりも、指揮者を演じるほうが、ベターだと思いますが、皆さん、いかがでしょうか。



ちょっと気になるあの仕掛け −7−

患者に倣う

 前の号では、「客に学ぶ」について書きました。今回は、「客に倣う」についてのお話。

「患者の目」を借りる

 ニコラシカは来院者と従業員の使う出入り口とトイレは別々です。そうすると来院者や患者さんの目には映っても、こちら(従業員)の目には映らないことがでてきます。ドアの内側からしか見ていなければ、ドアの外側は見えません。来院者用のドアの握りを、仕事中に私たちが握ることはありません。けど、実際には、手の油で汚れていることもあります。患者さん用のスリッパには、足をいれることはありません。しかし、いれてみると、不快な感じを抱くこともあります。
そこで、ニコラシカでは、朝礼の後オープン前の時間、昼休みなどを使って、患者さんと同じ行動・動きをしてみます。するといろいろなことが見えてきますし、感じとれます。ドアの握りのベタベタ、来院者用トイレの汚れ、本棚の本の乱れ、etc。ある時、ドキッとしたことがあります。患者さん用の電話の受話器を何気なく手にしてみると、話す方(口があたる方)に血液が付いていました。抜歯処置を受けた人が電話されたのでしょう。もちろんすぐ拭きました。
 患者さんの動きのみならず、要注意なことが子供さんの目の高さです。子供さんの目の高さは大人より低い位置です。たまには、子供の目線で見てみないと、意外なところの汚れや問題点が見えません。

子供たちの目の高さ

 患者さんの動きのみならず、要注意なことが子供さんの目の高さです。子供さんの目の高さは大人より低い位置です。たまには、子供の目線で見てみないと、意外なところの汚れや問題点が見えません。
 患者さんの行動を真似てみる。子供の目線で見てみる。「客に倣う」。時には、必要なことかも知れません。


少・年・易・老・学・難・成

【その7】こだわる

 大人=たいじんと読んで、広辞苑によると、「徳の高い立派な人。父や師匠・学者の敬称」とあります。雑誌サライに「大人に学ぶ」という特集がありました。歴歴の首相経験者・文豪・世界的日本人スポーツ選手など、故人を含めて、各界の著名人が分析してありました。その結果、ある程度、共通する項目があり、そのひとつに挙げられていたのが、「こだわる」ということです。

真剣に飲む、とことん飲む

 洋酒ならスコッチ、スコッチのなかでも、銘柄はこれ。注文する時には必ずその銘柄、絶対浮気はしない、もちろん飲み方も決まっている。ワイシャツなら、○○洋装店の誂えで、デザインはこれ、使用する糸はこの糸。というような、内容でした。
 ニコラもこの「こだわる」には、賛成です。こだわることと、お金を掛けることは意味が違います。ただし、こだわるためには心を掛けることが必要になります。いろいろ飲み歩いて、その銘柄にたどり着いたのか。たまたま、飲んだその銘柄がお気に入りになって、浮気をしないのか。帰納法なのか、演繹法なのか。いずれの場合でも、重要なことは、真剣に飲むとゆうことと、とことん飲むとゆうことでしょう。

使いこなす

 日常臨床において、いろいろな材料を使います。使いこなさないうちに、新製品がでたら、つい買ってしまいます。結局、使いこなさないうちに、これからあれ、あれからそれへと・・。飲む時くらい気楽にと仰有るかも知れませんが、普通に気楽に飲んでいたら、その人は大人には成れず、小人のままであったのかも知れません。



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