デンタルエコー vol.125 2002年1月25日発行 |
セレクトショップとコンビニエンスストアーに学ぶ ●FF=予防と総入れ歯 前回、来院する方のそれぞれの状況と言うことをお話ししました。今回はそれぞれの状況で来店するお客さんに合った、それぞれのお店の顔が必要だというお話です。 ニコラはタービンで歯を削るのがあまり好きではありません。そこで考えました、タービンで歯を削らなくてすむ治療はなんだろうか。得た答えは、予防と総入れ歯でした。幸い、田舎町のためか、年輩の方と子供さんは多いほうです。フッ素予防のFと、総義歯のFで、得意分野をFFとしました。 看板を「FF」としたのはいいのですが、実際始めてみると、何かしらうまくいきません。答えは明白です、来られる患者さんが、子供さんと年輩の方では同じやり方で上手くいくわけはありません。近くにコンビニエンスストアーがオープンしました。このコンビニからヒントを得ました。同時に、コンビニの対局にあるのがセレクトショップではないのかとも考えました。極端な言い方をすれば、予防はコンビニで、補綴はセレクトショップです。 ●予防システムはスポーツジム形式 予防は「年中無休、24時間営業、開いてて良かった」が理想でしょう。しかも薄利多売的、割安感が必要です。ニコラ・シカの予防システム、ハッスル隊はスポーツジム形式です。いつでも、お好きな時に、ジャストオンタイム。ハッスル隊の目的は二十歳の誕生日に、カリエスフリーであること。 完全自費、前払い制なので、その都度の会計は不要、便利(コンビニエント)です。会計不要なので、子供さんだけでも構いません。一月に何回来ても、オーケー。来れる時に、来れる回数だけ。 ハッスル隊8周年を機に、マイレージもスタート。10ポイントごとに気の利いた小物をプレゼント。 ●ハッスル隊は待ち時間0のVIP待遇 予防は継続してこそ効果的ですし、意味があります。しかし、大人でさえなかなか継続は難しいもの。そこで、いろいろなエンターテイメントをプラスしてのシステム。ハッスルしたあとは一人一人のカレンダーにシールを貼って。毎月一回の顔写真撮影、思いっきり歯を見せてのニッコリ顔。ハッスル隊のメンバーは、VIP待遇です。スタッフは禁止語は使いません。ネガティブな言葉も御法度。 ほとんどのハッスル隊メンバーはカリエスフリー、ですから、患者さんではなくお客さん。歯の痛みを全く知らない子供たちばかり。いつもニコニコ、遊びながらのムシバ予防。ある意味で怠惰(レージー)と便利は紙一重、レージーな人々(本来誰しもそうではあるが)を、勤勉な人々に変える便利なシステム。ハッスル隊もそのシステムのひとつです。 ●何にお金を払ってくれるのか さて、一方、補綴処置はセレクトショップである訳は? ここでは自費診療の補綴処置と考えて下さい。この前歯は陶器だから、この入れ歯は金でできているから、という説明はブランドショップと同じです。このバッグは、デザインはこうであってもヴィトンだから○○万円。この財布は色がこんなんでもエルメスだから△△万円。 セレクトショップならば、少々考え方が異なります。ある本に「センスのいい服を着ているからカッコいいのではなく、センスのいい人が着ている服がカッコいい、という思考回路である」とありました。まさしく補綴処置も、この思考回路が理想でしょう。材料や材質にお金を払うのではなく、誰に治療されたかにお金を払ってくれる。その歯科医のセンスや技術を評価してくれる。 ●来院者はどのお店を希望? というように、様々な状況で来られる人々。お客さんでいらっしゃたり、患者さんであったり、はたまた、単なる来院者であったり。様々な人が、それぞれの状況で来られます。そこをしっかり把握し損ねると、こちらの好意が逆に解釈されたり、来院者のデザイアどころかニーズすら満たせなくなることになります。 コンビニなのか、セレクトショップなのか、あるいはユニクロなのか。こちらが、先に一方的に決めるのではなく、しっかり話を聞いて、どのお店をご希望なのかを判断することは、これからより必要になるのかも知れません。 参考図書 「最新明解流行大百科」 甘糟りり子 アスペクト1998
多機能予約 今回の仕掛けは、様々な状況に対応可能な多機能予約についてのお話。 歯科診療所でのトラブルのひとつに、予約通りに行かないということがあります。患者さん側からの予約通りに行かないという場合もあれば、こちらから見て予定通りに行かないということもあります。ある時、知り合いから、「どうせ、予約通りに行っても待たされる」という声を聞きました。そこで、発想の転換。患者さんが予約を守らないのは、こちらが守らないから。即実行で、どんなことがあっても予約通りに来られた患者さんに関しては、予約の時間通りに中にお通しするようにしました。するとどうでしょう、見事に予約順守率が上がりました。 まずは、こちらが変わる、これがポイントです。 そうは言っても、予約外の患者さんは来られるし、歯が痛いとおっしゃる方を何日も待たせるわけにはいかないし…。そこで、多機能予約。
立場変われば見方も変わります。自動車の運転免許を取るまでは、100パーセント歩行者の立場しか知りませんでした。しかし、免許を取ったら、歩行者の立場に加えて運転手の立場も理解できるようになりました。診療室内に居たのでは、待合室から見る患者さんの気持ちはわかりません。そこで、お客になって逆の立場を学ぶ。 客になれば、客の視線で物事を見ます。小さな子供さんは、大人より低い目線で物事を見ています。行きつけのお店ですと、常連さんということでどちらかというと優遇されますので、あまり勉強にならないかも知れません。出張の時などは良いチャンスです。知らない街の知らない小料理屋の暖簾をくぐる。一見さんということで、おそらく普通の扱いを受けます。そんなとき、いろいろなプラス、マイナスが見えてきます。受けて嬉しかったサービス、心遣い、明日からの仕事に即生かせるヒントです。汚れていた椅子やトイレ、自己反省です。もちろん小料理屋のみならず、喫茶店でもスターバックスコーヒーでも、床屋さんでも、良い勉強になります。他科の病院や診療所を訪れるときは、まさしく他山の石です。 普通の客となって、普通の扱いを受ける。マイナスが多いときほど勉強にはなります、あまり後味は良くないものですが。もっとも、小料理屋に入って勉強の目線で物事を見ているのも、酔うまでの短い間のことですけどね。 |