デンタルエコー vol.124
2001年10月19日発行

連載●第5回


木を見て森も見る

 今回から各論に入っていきます。
 皆さん、単行本を手にされたときに、どこから読まれますか。まずは、目次から目を通される方もいらっしゃることでしょう。目次を見ると、その本の起承転結が大まかにつかめます。その話が、本全体の中でどのような位置づけにあるのかもわかります。
 さて、来院される方はさまざまな状況をもって来られます。
 歯が痛くて、飛び込んで来られる方。入れ歯が合わずに、足を運ばれた方。初めての来院で、こわごわの子供さん。来られる方の状況もさまざまであれば、病名や、治療内容もさまざまです。
 同じ患者さんでも、初診時とリコール時では別の状況です。背景にあるさまざまな状況を踏まえることは、意外と必要なことではないでしょうか。
 下記の図は、第二回で示した、ニコラサイクルをさらに詳しく、別の角度から見たものです。

 例えば、急性の痛みで来院された患者さんには、こちらも、急性のテンポで対応してあげたいと思います。
 その人が、口腔内に全くトラブルがなく、オーラルエステ(ティースクリーニング)が目的で来られた時には、診療所というよりもエステサロンのテンポの方が似合うでしょうし、ムシバがあっても治療目的ではなく、まずは見学希望の子供さんには、それなりの対応が必要でしょう。
 保険診療の患者さんと自費診療の患者さんにおいては、何かしらサービスに違いが有って当り前ではないでしょうか。来院者サイドにしても、希望する治療内容、望むサービスによって、費用に対する心づもりも違ってくるでしょう。
 そのような状況、それぞれの状況を把握しての対応、これからの誘導や示唆は必要なことだと思います。
 歯科医療のみならず医療は、cureからcareへ、careからcommunicationへというのが持論です。例えて言うならば、石につまずいて転んで膝をパックリ、四針縫ったというのがcure−治療、転んだけど擦り傷で、唾付けたら治ったというのがcare−手当。石があるから気を付けてと声かけて、転ばずに済んだというのがcommunication−コミュニケーション。CCCへの変遷です。
 さらに四つ目の「C」の追加です。それはcomfort−安楽、快適です。治療を受ける前も、受けている時も、受けた後も快適。加えて思うに、医療の原点とは、生活を楽にすること、コンフォートそのものではないでしょうか。


cure−治療−除痛
care−手当−避痛
comunication−声かけ−保楽
comfort−快適−増楽




ちょっと気になるあの仕掛け −5−

しゃべる写真

 ニコラ・シカでは、2回目の来院から予約制にしています。ただし田舎街のことですから、予約通りに、こちらの予定通りに、いつも行くとは限りません。「お嫁さんがついでに送ってくれた」とか、「今日と勘違いしちょった」とか。加えて、ほとんどの初診の方は予約なしで来られます。
 そのつど、対応した者が『予約の方が優先ですので、少々お待ちください』と声を掛けていました。しかし、こちらがバタバタしていたりすると、つい声をかけ忘れたり・・。受付に「いつまで待たせるのか!」とのクレームも。
そこで、一案を講じました、名付けて「しゃべる写真」。
 作り方は簡単。アンパンマンでも、ドキンちゃんでも構いません、子供の好きなキャラクターの人形を、口腔内撮影用のカメラでアップで写します。その写真に、テプラなどを用いて、言葉を入れたら出来上がり。もちろん、お気に入りの絵はがきや、コンランショップなどから届く、季節の便りに言葉を添えてもOK。
 不思議なことに、この「しゃべる写真」を受付に張ってから、「待たせるのか!」のクレームはピタリとなくなりました。
 文字だけだと、どうしても来院者の目を引きつけられません。子供の好きなキャラクターであれば、子供さんはもちろんのこと、大人の方の目を引きつけることもできます。無愛想に「ご予約優先で・・」と、生の声で言われるよりも、かわいい写真が語りかける方が、心和む時があるのではないでしょうか。もちろん、しゃべる写真を目にしたあとに、「こんにちは」と声が掛かれば、さらにベターです。
 この「しゃべる写真」、作り方は簡単ですので、季節ごとに取り換えられることをおすすめします。


少・年・易・老・学・難・成

【その5】指五本

 ニコラは、カラオケは好きな方です。その昔『Sachiko』という唄が流行りました。♪幸せを数えたら、片手にさえ余る 不幸せ・・の歌い出しをご存じの方も多いでしょう。
 今回はキャパシティーについてのお話。
 ニコラは人一倍好奇心旺盛です。習いたいことは、英会話に、中国語、トロンボーンに書道、etc。やりたいスポーツは、乗馬にカヌー、スキューバダイビングにランニングetc。持ちたいバッグは、リモワのトランクに、ゼロハリのケースに馬場万の鞄etc。持っている煩悩に至っては数え切れません。
 しかし、一日24時間、一週間は7日、一年365日と時間だけは、万人みな平等です。煩悩が多いほど、時間もあれば良いのでしょうけど、そうは
いきません。
そこで、多くの方は優先順位をつけて、煩悩を処理されているのではないでしょうか。ものすごく、気に入った新しいデザインのバッグに出会ったときに、このバッグを優先順位のトップにしてあのバッグは二番目に。ところが、優先順位を決めても、次から次に目新しいバッグは登場します。気がつくと中村うさぎ状態。バッグに限らず、ネクタイでも、お気に入りのスナックでも、気がつけば・・・。
 そこで提案。優先順位を決めるのではなく、キャパシティを設定する。
 例えば、習い事は二つまで。バッグなら五個。ネクタイなら十本。スナックなら三軒。五個のバッグを持っていて、新しいバッグに出会ったらどうするか?どれかひとつを必ず手放します。まずは熟慮、今手持ちの五個のバッグの中で、どのバッグを手放すか。手放せないとしたら、六個目は諦めます。ただ単に優先順位をつけるだけだと、やはり徐々に増えていきます。
 もちろん、バッグに限らず、臨床で使う器具や、材料、申し込むセミナー。カバーする治療内容に関しても、キャパシティを明確にしておくと、色々な意味で楽になります。やはり、ひとりの歯科医師のキャパシティには限度があります。

 収納に関する特集記事などを、よく雑誌で見かけますが、ニコラ流の収納方法の極意は、まず収納スペースを減らすこと。限られた、シェイプアップされた収納スペースをまず決めることから始まります。旅行鞄のパッキングも同様。まずひとまわり小さめの鞄を選ぶ、そうして、そのひとまわり小さな鞄に、いかにパッキングするかを考える。そうすればおのずと、持ち物は減り、知恵が増えます。
 今度、このような場面に遭遇した時には、ジッと手を見る。きっと知恵がでますよ。



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