no.50
2004/07
「水塩の点滴天地力合せ」

沢木欣一(1919年生れ 俳人 『塩田』(昭和31)所収)


精進=しょうじん

「能登の原始的な揚浜式塩田を訪れての作。なぎさ近くの塩田に海水をまき、炎天の陽にさらし、濃くなったものが水塩(みずしお)。これを鉄の釜で煮つめて、塩を得る」おおまかですが、このように解説してありました。
 去る五月に、フランス・ボルドーに行った時のことです。ペンションでの夕食は、鴨のロースト。マダムが食堂の暖炉で焼いています。それを見ながら通訳の女性が「フランス人は、あのように古典的な調理方法が好きなの」とひと言。センサーもタイマーも付いていない暖炉で焼くだけ。しかし、ハーブや塩の使い方に小技をみせる。古典的手法、シンプルな方法でありながら、知恵を存分に注ぎ、美味しいものに仕上げる。ブドウの古木でローストされた鴨は、もちろんデリシュ!。あるセラーで新兵器を見ました。多くのセラーでは、樽を二段くらいに重ねてあります。当然の事ながら、下の段の樽を動かすには、上の樽や隣の樽を動かさないとダメです。オーナーマダムは「レゴのように組み立て式なの」と話してくれましたが、まさしく、樽棚!しかも驚いたことに、ひとつひとつの樽が、くるりっとその棚の中でまわせるのです。蜂の巣を横にしたと思ってください、棚が蜂の巣で、樽が蜂の子です。「バトナージュのために、こうやって回すのよ」と、笑顔のマダムはくるりと回して見せてくれました。
 美美(びみ・福岡市)のマスターが「ネルドリップで珈琲を淹れるということは、火と水と重力しか使っていない。こういうプリミティブ(原始的・素朴)な方法はすたれない」というようなことを、おっしゃっていました。「何もない台所から絞り出すことが精進だ」と、水上勉さんは書いておられます。普段なら野菜クズとして捨てられてしまうようなものや、食材としてはあまり上等ではないものを使って、または少ない材料の中で、いかに美味しい料理をつくるか、というような意味に理解しています。
 今回の旅の途中、フッと頭に浮かんだ言葉がこの「精進」でした。フランスのワイン造りを見て回れば回るほど、この「精進」という言葉を強く感じます。農薬はほとんど使わず、器械に頼らず、人の手を多用し、かと言って、あれやこれやと手を加えるのではなく、いかに素直にいいものをつくるのかに腐心しています。ブドウ畑の土の性質のことをテロワールといいます。彼らは、いかにテロワールが重要で、いかに土を大事にしているかということを異口同音に熱く語ります。水上勉さんの本のタイトルは「土を喰ふ日々」。やはり、精進とは洋の東西を問わないようです。テロワールとは、土や畑だけでなく、そこの日当たり・天気・気候・風を含めた意味でもあるようですが、冒頭の句の「天地力合せ」は、まさしくこのテロワール。ハナ通信は今号で50号です。年四回発行ですから13年間、しかし、まだまだ「精進」です。読者の皆様に感謝!

参考文献
新編折々のうた(一) 大岡 信 朝日新聞社
土を喰ふ日々 水上 勉 文化出版社



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