no.35
2000/10
「きのこ飯ほこほことして盛られたる」
日野 草城([1901-1956]東京下谷生まれ)

技あり入れ歯

 さるシドニーオリンピックで、日本柔道陣の大活躍は記憶に新しいところです。今回は入れ歯の小技、隠し技についてのお話。
 皆さんは舞茸というきのこを御存じでしょうか。今でこそ、南九州でも手にはいりますが、カルノは14年ほど前に栃木で初めて口にしました。その肉厚なことや味に驚き、文字どおり舞うほどに感動したことを覚えています。冒頭の句のきのこは何のきのこかは分かりませんが、きのこ飯を目の前にしていざ食べようとしても、口の中にトラブルがあれば、生唾を飲み込むだけで味わうことはできません。
 話は飛びますが、昔の大工さんは、家を壊して新しく建てるかえる際に、古い家の天井板をわざと何枚か使ったそうです。昔の家の匂いや、名残を少しでも新しい家に取り入れることでの、住む人への優しさでしょうか。
 長年使われた入れ歯(特に総入れ歯)には、その人のいろいろな癖や個性がきざみこまれています。今まで、そのような癖や個性は新しい入れ歯作りにはマイナスのものとしてとらえ、どちらかというと、癖や個性をただすような入れ歯を作ってきました。しかしその人の癖というものはそう易々とただせるものではありません。そこで、新しい考え方として「技あり入れ歯」。その人の癖や個性をきちんと診断し、残しても良い癖は新しい入れ歯に「小技」として積極的に取り入れる。決して治療の名のもとの押しつけ入れ歯ではなく、できるだけ違和感のないような新入れ歯を作る。新入れ歯になって見栄えは良くなったけど、糸が切れなくなったとか、きのこが噛みきれなくなったとか、技あり入れ歯ならそのようなことはなくなるでしょう。
 最後にひとつだけ。長年使われた入れ歯を新しくするのには、ある程度の期間や時間が必要です。すぐにはできません。また、良くあった入れ歯をお使いの方は、全く問題なく調子がすこぶる良好でも、どうぞ入れ歯の定期検診を。こまめな手入れや検診が、入れ歯の寿命を延ばします。これは、いつまでも『美味しい』を味わうための「隠し技」です。






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