no.15
1995/10
「酒癖に なるまでしづか 土瓶蒸し」
永井龍男(『永井龍男句集』所収。明治37年東京生まれ)

「ゼンマイ仕掛けの人形」

 今回のテーマは「歩く」です。当たり前のことですが、ゼンマイ仕掛けの人形はゼンマイを巻くことで動きます。ではヒトはどうか。人たるゆえんに直立二足歩行があり、人は歩くことによって体や頭のゼンマイを巻くのです。歩くことが体に良いとよく耳にします。目的のない散歩がいいようです。以下、散歩礼賛からの拾い読み。(散歩礼賛・北嶋廣敏 著)

キルケゴール
いくつかの部屋に紙とインクを置き、部屋から部屋へと歩き回り、考えが浮かぶと歩みを止め書き付けた。こうして、多くの著作を生み出した。
ルソー
徒歩にはなにかしら私の思考を活発にするものを持っている。私は歩きながらではなくては思索できない、立ち止まるともう考えてはいない、つまり頭脳は足と同時でなければすすまないのだ。
アリストテレス
彼とその弟子の哲学者たちが、なぜあんなにもすばらしいインスピレーションに恵まれていたのかは、サンダルを履いて歩き回ったからである。
ひらめきの散歩
ヒトは二本足で歩くことで、サルから分かれて進化し、サピエンチアを持つに至った。もっと歩けばサピエンチアはさらに高まるのだろうか。歩くことは脳を活発化するという。(サピエンチア=知恵)
ひやかしの散歩
「歩」という字を分解すると、「止」と「少」になる。少し止まる、歩きながら立ち止まる。路傍の花に気をとられ、じっくり眺めるだけの余裕がなければ散歩ではない。

 以上にように、リラックスして歩くことには全身を理想的に運動させる何かがあるのです。頭の回転スピードはその人の歩く速さであり、歩くことは創造的思考を活性化し、歩き方はその人の心を表しています。ぶらつき、そぞろ歩き、のろのろ歩き、軽い足取り、等々。涼しくなってきた今、あなたも、目的のない散歩を楽しんでみてはいかがかな。

「酒」

 冒頭の句の解説がおもしろかったので、記しておきます。
 土瓶蒸しは松茸はじめ鶏肉、魚、銀杏、かまぼこ、野菜などをあしらった汁物だが、これを食べる時、人は思わず箸の先に心を集中して静かになる。しかし、それも酒癖が頭をもたげるまでの間だけ。

「折りのうた 大岡 信」より





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