no.4
1993/1
「鮟鱇の 骨まで凍てて ぶち切らる」
加藤楸邨『起伏』(昭和24年)所収 1905年生まれ

味覚=みかく

 味覚は舌にある味蕾(みらい)がその役をにないますが、口の粘膜やのど(咽頭、喉頭)でも感じます。これが味わうとなると、視覚、触覚(舌触り)、臭覚、聴覚(歯ざわりと音)の五感を総動員させ、嗜好を加味すれば人間特有の精神活動とでも言えましょう。おもしろいことにこの味覚は、国(民族)によって多少異なります。日本人の味覚は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つと言われ、ドイツ人は甘、酸、塩、苦(四原味)です。フランス人などは四原味に、アルカリ味、金属味を加えて六味、インド人は四原味に渋味、辛味、不了味(腐敗臭)、淡味を加えて八味とします。味覚だけならば味蕾があれば用は足ります。しかし味わうとなればそれなりの道具が必要です。心のこもった料理をきれいな食器に盛られても、それを味わう道具がおそまつでは充分に味わうことはできません。味わう道具とは、歯と顎です。口の中の食器である歯と顎をもう少しきれいにしてほしいものです。

鮟鱇鍋=あんこうなべ

 冬の味覚というば鍋。鍋を囲んで熱燗で一杯、最高である。魚や肉、野菜などを切って煮るだけの原始的な料理ではあるが、栄養のバランスも良く心まで温まる。この時季、数ある鍋の中でも鮟鱇鍋は最高である。「西のフグ、東のアンコウ」と頼山陽も東西珍味の双璧として挙げている。鮟鱇を「カワ」(皮)、「トモ」(肝臓)、「ヌノ」(卵巣)、「水袋」(胃)、「エラ」(鰓)、「ヒレ」(尾ヒレ)、「ヤナギ」(頬肉)の七つに材料(七つ道具)に分け、トモを味噌にすりこんでダシ汁に溶き、この七つ道具と野菜を煮たものが鮟鱇鍋。このトモ=アンキモは栄養価が高く、ビタミンもアミノ酸類も他の魚と一桁違うほど数多く含んでいる。東のアンコウと言われるように茨城は水戸市の隣、那珂湊が本場である。真冬ともなれば水戸市内のなべ屋の店先にはつるしてあり、まさしく天然の冷凍庫の中で、「骨まで凍てて」となる。東京は神田の「いせ源」は鮟鱇鍋の老舗であり、夏目漱石らも足を運んだと言われる。一度おためしあれ。






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