オススメ.72





「フィルム」
小山薫堂
講談社 1600円+税
フィルム

 十話の短編小説がまとめられた一冊の本である。一話一話は確かに短く短編であることには違いない。しかし数行読むとすぐに、いわば薫堂ワールドの中に自分自身が立っているような錯覚を覚える。しかも、短編小説というより短編映画を客席からではなく、ロケ現場を見物する位置で俯瞰している錯覚にとらわれる。確かに短いが一話を読み終えた時に、しばしボーッとなり、短編映画のオープニングからエンディングまでが、再度、頭の中を走馬燈のように反芻される。
  オー・ヘンリーの平成東京版とでも言えよう。登場するレストランのいくつかで食事した経験があるだけに、よりリアルに身近に感じられる。また登場人物の年齢設定が近いこともリアルさに拍車をかける。
  本のタイトルにもなっている「フィルム」に、父親とのキャッチボールの思い出のくだりがある。父親とのこのような記憶がないだけに、よりセピア色の映画のワンシーンのごとく、心に残った。今のうちに息子とキャッチボールをしておこうと心底、思った。
  「あえか」とは、美しくかよわげなさまを表す言葉だそうだ。同じ言葉が薫堂氏の「恋する日本語」にも出てくる。おかわりにどうぞ。


「恋する日本語」

小山薫堂 1365円 幻冬舎




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