ものづくり名手名言 歯科技工 第23号 平成14年7月1日発行

第23回 フランスのワイン醸造家を訪ねて(前)




「それは哲学です」
Interviewee Larmandier Bernier さん(シャンパン生産者)

ラルマンディエ・ベルニエ
1880年からコート・ド・ブランの南ヴェルチュ村で、家族経営のレコルタン・マニュピュラン(自分で造ったワインを自分のラベルで出す)として、シャンパン造りを営む。
「CHAMPAGENE LARMANDIER BERNIER」
43,Rue du 28 Aout 51130-VERTUS
URL:http://www.larmandier.com/
ベルニエさんの手→

フランスを訪ねた「ものづくり 名手名言」は前・後編の2回掲載。シャンパーニュ地方(今回)とブルゴーニュ地方(今回、次回)のワイン醸造家を紹介します。
本連載に登場するワイン生産地→


まずは、簡単にシャンパンの造り方から教えて下さい。

 まず、ブドウを絞ります。そして、そのブドウ汁を、樫樽やステンレスタンクで発酵させます(第一次発酵)。今度はそれをブレンドして、瓶詰めし、王冠で密栓します。瓶内での二次発酵のために、数年間熟成させます。その間、瓶口を斜め下向きに傾け、少しずつ回しながら、澱を瓶口に集めます(ルミアージュ:動瓶)。冷却した塩化カルシウム水溶液に瓶口をつけ、凍らせて、仮栓とともに澱を取り除きます。その後、糖を加えてコルク栓にて密栓します。

ブドウ畑では、どんなことに気を配っていらっしゃいますか?

 なんといっても、畑の土の精気を大事にします。より自然に近い状態であればあるほど、そこの土の性格がはっきりとブドウに現れます。有機表示のラベルは取ってはいませんが、ほぼ100%有機といえるでしょう。雑草を見てもらえばおわかりいただけると思いますが、雑草も生き生きとしているでしょう(笑)。
 このあたりは、コート・ド・ブラン(白い丘)と呼ばれるほど、石灰質の多い土壌です。ブドウにとっては、根を張りにくい土ですが、根を張りにくいほうが、ブドウの樹そのものが頑張って、力強いように思えますね。

では、シャンパン造りで心掛けることは?

 少人数の家族経営(レコルタン・マニュピュラン)ですから、いろいろな場面で人手が足りません。この器械は動瓶するための器械です(次頁、左上)。昔は、人の手で回していましたが、今ではこの器械を使います。一週間のプログラムがセットしてあります。動瓶を人の手でする暇があったら、畑に出向いてブドウの世話をします。いかに良いブドウを造るかが、すなわち良いシャンパンを造るということです。器械がしてくれることは器械に頼みますが、その分、器械には決してできないことに手間暇を惜しみません。除草剤を使用せずに、手で雑草を取ることなどもそうです。
 少し話は飛びますが、二次発酵のための瓶詰めの際に、以前は酵母を使っていました。しかし、今では使っていません。土に元気があると、もちろん良いブドウができます。しかも、ブドウに自然に付着している菌などで、十分に自然発酵します。ですから、土も、ブドウも、発酵も、自然そのままが一番いいのです。
 土の性質のことをテロワールといいますが、テロワールとは、土や畑だけでなく、そこの日当たり・天気・気候・風を含めてテロワールといえるでしょう。健康なテロワールをさらに元気にし、そのテロワールの特長を自然にブドウに醸し出す。あれやこれやと手を加えないほうが、ブドウが良ければ、良いシャンパンができるに決まっています。ブドウの良さが100あるとすれば、そのうちの98か99までをシャンパンに再現したいと思います。

動瓶のための器械→
自然の状態の土の性格は、はっきりとブドウに現れる


目指すシャンパンの味は?

 たとえばシャルドネ種のブドウは、日本でもオーストラリアでも植えられますが、同じシャルドネでも、ヴェルチュの味、ここのテロワールが味に出ているのはここだけですよね。これを誇りにしています。量産は可能です。しかし、特長のあるここのテロワールは薄らいでしまいます。2kgのブドウが取れることよりも、1kgの中に凝縮されているほうを選びます。それは哲学です。それを迷わず持ち続けることはかなり大変なことです。わが家では、もう何代も前からこの哲学を持ってブドウを造ってきました。約20年くらい前、量産の流れが来ました。多少その流れに乗りかけましたが、自問自答の後、10年くらい前から、やはりここのテロワールをしっかりと持ったブドウ造りに戻しました。大きなメーカーであれば、毎年、同じ味のシャンパンを大量に造ります。うちは違います。テロワールのしっかりしたシャンパンを造るということは、名前は同じシャンパンでも、全く別物なんです。ですから、飲んでくださる方も違います。すべての人が、うちの味を理解して好んでくださるとは思えません。
 日本でも、少しずつレコルタン・マニュピュランのシャンパンが紹介されていると聞きますが、非常に嬉しいことです。日本人の味覚は繊細だと思います。フランス人はシャンパンのことは何でも知っていると言わんばかりに話しますが、それは灯台もと暗しで、意外と最後にこの味の良さに気づくのが、フランス人なのかもしれませんね(笑)。




「子育てと同じです」
Interviewee Dominique Mugneret さん(ワイン生産者)

ドミニク・ミニュレ
「Dominique MUGNERET」
9,Rue de la Fontaine
21700-VOSNE ROMANEE

消費者のニーズには、どう応えるのですか?

 消費者のニーズはいろいろと変わります。ひと昔前、アメリカでのワインブームの時のことです。彼らは澱を嫌い、あくまでも澄んでいるワインを好みました。その時は、フィルターにかけたりして、必要以上に澱を取り除いたりしましたが、今はやっていません。澱の存在は、瓶内のワインにとっては良い作用を及ぼすとはっきりしたからです。やはり商売ですから、消費者のニーズには耳を貸します(笑)。昔の商売のやり方、ワインの造り手は、「こういうものができました。欲しい人は買って下さい」というものでした。しかし今は、消費者の流れを踏まえる努力をしています。たとえば、以前は、熟成の長いワイン、20年かけて飲み頃になるようなワインも造っていました。でも、今は20年待てるお客さんは少ないでしょう。ですから、もっとスパンの短いものを造っています。
 もちろん変えていないこともあります。有機的な造り方は、今はブームのようになっていますが、そのことは消費者サイドにおいて再評価されただけで、ここブルゴーニュでは昔からやってきたことです。消費者のニーズを聞いて、変えられることは変えますが、変えたくないことは変えません。

90年の樹齢の樹があるのですか?

 90年もブドウの樹が生きるのは、希なことです。この樹は、私の祖父以上にわが家のことを知っていますよ。通常、生産者は自分が若い頃に植えた樹の収穫はできますが、2回目に植えた樹の収穫は、自分ではできません。子供たちのために植えることになります。新しく植えたブドウの樹は、15年くらいしないと一人前にはなれません。生産者としては、その15年を待つ必要があります。フランスには「どんな文化も本物になるには時間がかかる」という諺があります。ワイン造りは子育てと同じです。造り手みんなが良い親でもなければ、ブドウの樹がみんな良い子供でもありません。今、手掛けたことの結果がでるのは、早くても、2、3年後です。その時その時で手を抜かず、じっくりあせらず育てないとだめでしょうね。
 昨年の9月11日以降、明らかに、ブルゴーニュを訪れる人は減りました。またワインの消費量もテロ以降、落ち込んでいます。こんな時にこそ、美味しいブルゴーニュのワインを飲んで、心を落ち着けて、生きている喜びを噛みしめてほしいものです(笑)。




「ワインに対する愛です」
Interviewee Francois Leclerc さん(ワイン生産者)

フランソワ・レクレール
1973年生まれ (写真は3代目の父・ルネさんと)
「Rene LECLERC」
27,Route de Dijion 21200-GEVEREY CHAMBERTIN
引き継がれていく家系の味→
左:フランソワさん
右:父のルネさん

あなたのワイン造りの特長は?

 ブドウはすべて手で摘みます。当たり前といわれるかもしれませんが、きちんと人の目で見ながら、選びながら、摘み取るということは大変なことです。次に、1951年から使っている圧搾機で絞ります。5t入るタンクに入れて、発酵があまり進まないように気を使いながら、まず予備発酵を促します。その後、摂氏13℃くらいで低温発酵させた後、次第に温度が上がっていくようにします。何度まで上がるかは、年によって違います。フルーツとしての香りと色を、しっかり出すことを特長としています。

このような美味しいワインができる秘密は?

 それは、ワインに対する愛です。愛情です。セラーによってはいろいろな器具や器械を使ったり、新しい方法を導入したりします。また、オノログと呼ばれる鑑定士に来てもらって分析してもらい、いろいろとああだこうだと、アドバイスを受けたりします。しかし、私たちは祖父の代からの器具や樽を使い、祖父たちが育ててきた年取ったブドウの樹を、今なお大事に育てています。祖父たちが取ってきたやり方をしっかり踏まえながら、地に足のついた造り方をしています。

4代目としてのこれからは?

 いろいろといじらないことです。変に手を加えないことです。わが家のやり方に、ほかと違いがあるとすれば、愛情の注ぎ方、手塩にかけるということではないでしょうか。恐れずに自分のやり方、自分たちの道を進むほうがいいと思います。迷わずに、自分の造るワインの味に自信を持つことが必要です。ネゴシアンの方にアドバイスをもらったり、オノログに分析してもらっても、結局はそのオノログやネゴシアンの好みの味になってしまうだけです。似通った味になってしまうのであれば、私がワインを造る意味がないでしょう。2001年に、4代目として家業を継ぎました。私は、祖父や父から受け継いだわが家の家系の味を、育てていきたいですね。



今回の取材にあたり、岡山酒店店主・岡山 宏氏に多大なるご協力をいただきましたことに、深謝いたします。

●ワインについてのお問い合わせ
岡山酒店 〒890-0054 鹿児島市荒田1-16-28



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